タレントグローススタジオは「キャリアを、翻訳する。」というテーマで、想いが伝わるキャリア支援の人材サービスを行っています。地方人材とスタートアップ企業、スタートアップ人材と地方企業のそれぞれの言葉を翻訳し、想いが伝わる転職活動を支援いたします。
キャリア・転職コラムでは、転職活動やキャリアアップに向けた情報を共有し、後悔のないキャリア選択や可能性の発揮を支援します。
この記事は、首都圏などで営業、事業開発、経営企画、財務などの経験を積み、UターンやIターンで、その経験を地方の企業で生かしたい方に向けて書いています。
地方で働く先を考える時、地方銀行や地方公務員は、安定して年収が高い職業として人気を集めやすいと考えられます。どちらも中途採用を行っていて、転職の選択肢になっています。地方公務員では、全国の地方公共団体が新卒者向け以外の採用試験で採った人が、令和2年度から毎年増え、令和6年度は13,586人でした。
一方、よりビジネスの経験を生かしてキャリアアップを目指しやすい転職先として、地方発のスタートアップや、地域で成長中のアトツギ企業などが挙げられます。スタートアップは、出資を受けて、上場などを目指して成長している会社です。リスクの度合いも高い傾向にありますが、その分ダイナミックさがある環境です。
アトツギ企業は、代替わりしたアトツギ経営者によって、変革・再成長を目指している企業です。代替わりの前でも、後継者の候補がすでに社内で事業に携わり、変革を進め始めている会社も含みます。もともとの事業があるため財政基盤が安定している傾向があり、地域活動に積極的な支援を行っている会社も多くあります。そのため、Uターン・Iターンの転職先として有力な選択肢になります。
承継の後に新しい事業に取り組む会社が、課題として最も多く挙げているのは人材の確保です。こうした会社には、営業、経営企画、経理・財務などの経験を持つ人が生かせる仕事があると考えられます。ただし、地方の中小企業は数が多く、どの会社で自分の経験が生き、どの会社が伸びているのかを、外から見分けるのは簡単ではありません。
この記事では、承継した会社で何が起きていて、どんな経験の人が求められているかを説明します。あわせて、伸びている会社を見分けるために確かめる点も示します。
そのうえで、アトツギ企業と同じくキャリアアップを目指しやすい地方のスタートアップとの違いを中心に、仕事の性質を比べます。会社の探し方と、入る前に確かめることもまとめます。
- この記事で分かること
- 1. 中小企業の約74%は東京圏の外にあり、その中に、後継者が家業の技術や取引先をもとに新しい事業を進めるアトツギ企業がある
- 2. 承継した会社の売上の伸びは、平均では3年後に業種の平均を上回るが、会社ごとに確かめる
- 3. 承継の後に新しい事業に取り組む会社の課題の1位は人材の確保で、経験のある人が求められている
- 4. 売上を伸ばしている中小企業が外から迎えた右腕には、営業、経営企画、経理・財務の知識を持つ人が多く、これらの経験は経営者を支える仕事に生かせる
- 5. アトツギ企業を、地方銀行や公務員でなく、キャリアアップを目指しやすい地方のスタートアップと比べる
- 6. アトツギ企業の見つけ方:後継者が事業を発表する場と、ふつうの転職の経路
- 7. 入る前に、承継がどの段階にあるかと、誰が意思決定しているかを確かめる
- 8. まとめ: アトツギ企業を地方のスタートアップと比べて候補に入れ、伸びているかと承継の段階を確かめて転職先を決める
- 出典と注記
この記事で分かること
- アトツギ企業とは:後継者が新しい事業を進める中小企業
- 承継した会社の売上:伸びているかは会社ごとに確かめる
- 承継後の新しい事業の課題:1位は人材の確保
- 右腕の仕事に生きる経験:営業、経営企画、経理・財務
- アトツギ企業と比べる転職先:地方銀行や公務員でなく地方のスタートアップ
- アトツギ企業の見つけ方:後継者が事業を発表する場と、ふつうの転職の経路
- 入る前に確かめること:承継の段階と、誰が意思決定しているか
1. 中小企業の約74%は東京圏の外にあり、その中に、後継者が家業の技術や取引先をもとに新しい事業を進めるアトツギ企業がある
この記事では、事業を継いだ後継者や、これから継ぐ後継者の候補(アトツギ)が、家業の技術や取引先などの経営資源をもとに、新しい事業や改革を進めている中小企業を「アトツギ企業」と呼びます。基本は代替わりを終えた会社ですが、代替わりの前の段階で、後継者の候補がすでに社内で事業に携わっている会社も含みます。
1-1. 後継者が技術や取引先を引き継いだ会社では、外から入る人もそれらを生かせることがある
事業承継は、会社の経営を次の世代へ引き継ぐことです。後継者には、親族だけでなく、従業員から選ばれた人や、M&Aで会社を引き継いだ人もいます。
引き継ぐものには、経営権、株式や事業用の資産のほか、経営理念、従業員の技術、取引先との人脈、顧客の情報などの知的資産があります。
後継者がこれらを引き継いでいる会社では、外から入った人も、すでにある技術や取引先をもとに新しい事業を進められることがあります。ただし、承継の段階によっては、先代が取引先との関係を持ち続けている会社もあります。
若い後継者が家業の経営資源を生かして、新規事業、業態の転換、新しい市場の開拓に挑むことは、「ベンチャー型事業承継」とも呼ばれます(2021年版中小企業白書)。
1-2. 地方で民間の会社に転職すると候補の多くは中小企業で、その約半数には後継者がいる
中小企業庁の集計では、2021年6月時点の中小企業は336.5万者(会社と個人事業者を合わせた数で、会社以外の法人と農林漁業を除きます)で、全企業の99.7%です。このうち249万7,986者(74.2%)は、埼玉、千葉、東京、神奈川の東京圏の外にあります。大企業は53.5%が東京圏にあります。
中小企業で働く人は約3,310万人で、働く人全体の約70%です。UターンやIターンで地方の民間企業に転職しようとすると、候補の多くは中小企業になります。
中小企業のうち、後継者がいない会社の割合は下がってきています。2026年版の白書に載った帝国データバンクの集計では、2018年の67.2%から毎年下がり、2025年は50.8%でした。
残りの約半数の会社には後継者がいて、これから承継を迎えます。アトツギ企業には、すでに承継を終えた会社のほか、こうした会社のうち、後継者の候補がすでに社内で事業に携わり、新しい事業を進めている会社も入ります。
1-3. アトツギ甲子園の受賞者が発表したテーマから、地方の家業の技術をもとにした新しい事業の案が分かる
アトツギ甲子園は、中小企業庁が2020年度から開いているピッチコンテストです。39歳以下の後継予定者が、家業の経営資源を生かした新しい事業の案を発表します。
経済産業省の2026年2月の発表によると、第6回の決勝大会では、次の5社の後継者が賞を受けました。
- 経済産業大臣賞は、山梨県の有限会社モールドモデルです。発表のテーマは「産廃で技術と食を守る 鋳造屋の世界初への挑戦」です。
- 中小企業庁長官賞は、沖縄県の株式会社日本バイオテックです。テーマは「私の挑戦はパリから! 沖縄から届ける美の栄養」です。
- イノベーション・環境局長賞は、山形県の株式会社髙梨製作所です。テーマは「射出成形と金型製造で生み出す 新たなものづくり」です。
- 優秀賞は、愛知県の有限会社稲垣石材店です。テーマは「石の価値をすべての人に届ける 石屋の挑戦」です。
- 優秀賞は、兵庫県の株式会社マルキンです。テーマは「世界の切れ味を 日本の刃物技術で変える」です。
5社はどれも東京圏の外の会社です。テーマには鋳造、金型、石材、刃物のような家業の技術が入り、パリや世界への展開を掲げた会社もあります。こうした新しい事業では、家業の技術を新しい市場に届ける営業や事業開発の仕事が必要になると考えられます。
2. 承継した会社の売上の伸びは、平均では3年後に業種の平均を上回るが、会社ごとに確かめる
2023年版の白書は、2008年から2012年に経営者が1回交代し、その後9年間の売上が分かる会社について、売上高の成長率を同じ業種の平均と比べています。比べている相手は同じ業種の平均で、事業を承継しなかった会社ではありません。
平均との差は、承継の1年後と2年後がマイナス0.2ポイントで、3年後に0.1ポイントと上回り、5年後に0.7ポイント、9年後に2.1ポイントと広がりました。代表が交代した直後の2年は業種の平均をやや下回り、その後に上回る動きです。
ただし、これは承継した会社の平均の動きです。白書は、年数がたつほど会社ごとの成長率のばらつきが広がり、成長している会社と成長していない会社で二極化が進んでいる可能性があると書いています。
承継の時点から2021年までの売上の伸びを業種の中で4つの区分に分けた集計では、最も高い区分に入った会社は、事業再構築に取り組んだ会社で28.8%、取り組んでいない会社で24.6%で、取り組んだ会社のほうが少し高くなっています。
用語説明
事業再構築:新しい製品やサービスを始めることや、提供の方法を大きく変えること
2-1. 伸びている会社か、これから伸ばそうとしている会社かは、承継からの年数、売上の動き、新しい事業の進み具合、採用と育成への投資で確かめる
承継した会社ならどこでも伸びるわけではないので、応募の前や面接で、次の4つを確かめることをおすすめします。
- 1つ目は、承継から何年たったかです。平均では承継から2年は業種の平均をやや下回るので、承継から3年に満たない会社では、売上の数字よりも、新しい事業の計画と進み具合を聞くほうが、判断の材料にしやすくなります。
- 2つ目は、直近の数年で売上がどう動いたかです。上場していない会社は売上を公表していないことが多いので、面接で聞くことをおすすめします。
- 3つ目は、新しい事業がどこまで進み、会社の売上のどれくらいを占めているかです。事業再構築に取り組んだ会社のほうが、売上の伸びが高い区分に入る割合が少し高かったためです。
- 4つ目は、新しい事業のために人を採っているか、人材育成への投資を増やしているかです。新しい事業を伸ばすために、会社が人にどこまで投資しようとしているかが分かります。
新しい事業の中身と承継の時期は、会社の公式サイトのお知らせや代表者のあいさつ、アトツギ甲子園などの発表で、先に読めることがあります。売上の動きや、新しい事業が売上に占める割合は外から分かりにくいので、面接で聞くか、人材紹介の担当者を通じて確かめる方法があります。人を採っているかは、会社の採用ページや求人で分かることがあります。
3. 承継の後に新しい事業に取り組む会社の課題の1位は人材の確保で、経験のある人が求められている
2023年版の白書によると、承継から5年目から9年目の会社の59.7%が、事業再構築に取り組んでいます。取り組んだ会社が挙げた課題で最も多いのは、人材の確保(54.2%)です。新しい技術やノウハウの獲得(47.2%)、情報の収集(38.4%)が続き、この3つはどれも資金の調達(21.9%)を大きく上回っています。
中小企業全体でも、事業の中核を担う人や高い専門性を持つ人(中核人材)が足りていない会社が多くあります。2024年版の白書では、中小企業の74.5%が、中核人材について「不足」と答えました。不足している会社のうち、応募が「全くない」会社は37.7%、「あまりない」会社は51.8%です。
新しい事業を進めるアトツギ企業の中にも、経験のある人を求めながら応募を集められていない会社があると考えられます。
3-1. 面接では、後継者が何を変えたいかを聞き、自分の経験が合うかを確かめる
2025年版の白書は、2代目以降の経営者に、承継の後で効果があった取組を聞いています。40歳代以下の経営者(4,176人)で最も多かったのは「新たな感性や考え方の導入」(42.7%)で、社内の雰囲気の変化(36.9%)、経営管理の改善(36.8%)、組織体制の変化(35.5%)が続きます。
50歳代と60歳代の経営者(10,913人)では、「新たな感性や考え方の導入」を挙げたのは33.8%でした。若い後継者ほど、これまでと違う考え方を会社に取り入れたことを効果として挙げています。
この調査が聞いているのは後継者自身の取組で、外から迎えた人の効果ではありません。新しい考え方を取り入れようとしている後継者の会社では、ほかの業界や大きな組織で働いてきた人の経験も生かしやすいと考えられます。
面接で、後継者が承継の後に何を変えてきたか、これから何を変えたいかを聞くと、自分の経験が合うかを確かめられます。
4. 売上を伸ばしている中小企業が外から迎えた右腕には、営業、経営企画、経理・財務の知識を持つ人が多く、これらの経験は経営者を支える仕事に生かせる
2023年版の白書には、2020年から2021年に2期続けて売上が増えた会社などを対象に、帝国データバンクが2022年11月から12月に行った調査(回答3,466社)の結果が載っています。
承継した会社に限った数字ではありませんが、売上を伸ばしている中小企業が、経営者を支える人を外から迎える時に、どんな経験の人を選び、どんな形で迎えているかが分かります。
4-1. 自分の業務経験で担える仕事を説明できるようにする
白書は、経営者に続くナンバー2で、経営の悩みを相談できる人を「右腕人材」と呼んでいます。調査では、直近10年に右腕人材がいた会社は65.6%で、こうした会社に右腕の経歴を聞くと、外から迎えた人が26.3%、社内で育てた人が73.7%でした。
外から迎えた右腕の知識やスキルで多いのは、営業(56.8%)、経営企画(43.6%)、経理・財務(28.5%)、総務(26.6%)、人事(25.2%)です。社内で育てた右腕の経営企画(33.5%)や経理・財務(18.3%)と比べると、外から迎えた右腕には、管理の分野の知識を持つ人が多くいます。
会社が外から右腕を選ぶ時に重視したのは、業務経験の豊富さ(67.0%)、コミュニケーションの力(64.1%)、知識やスキルの希少さ(61.3%)でした。経営者に率直に意見を言える気質も、44.6%の会社が挙げています。
首都圏などで積んだ営業、経営企画、経理・財務の経験は、外から迎えた右腕に多い知識に当てはまります。応募の前に、自分が担ってきた業務をもとに、相手の会社の売上や管理のどの仕事を担えるかを説明できるように準備しておくことをおすすめします。
4-2. 新しい事業づくりで外から迎えた人の知識も、営業と経営企画が多い
白書は、経営者に近い立場で、高い専門性や事業を進める力を持つ人を「変革人材」と呼んでいます。調査に答えた会社のうち、直近10年に外から迎えた変革人材がいた会社は25.8%でした。
新しい事業づくりに関わった外部の変革人材の知識も、営業(56.6%)と経営企画(43.6%)が上位で、製品・サービスの企画・開発(33.2%)、マーケティング(24.2%)が続きます。
4-3. 新しい事業に関わる人を雇用契約で迎えた会社が7割を超えるが、副業や業務委託で関わる形もある
同じ調査で契約の形を見ると、自社と雇用契約を結んで転職や転籍をしてもらった会社が72.5%でした(複数回答)。本業の勤め先と同時に働く形(9.5%)や、週や月に決まった日数だけ関わる形(8.5%)を挙げた会社もあり、今の仕事を続けたまま関わる道もあります。
承継をきっかけに、外の人と業務委託の契約を結んだ例もあります。内閣府の「プロフェッショナル人材活用ガイドブック2026」に載った例では、千葉県八千代市の株式会社秋葉牧場(1887年創業、従業員425名)が、事業承継とコロナ禍を機に6次産業化を目指しました。
用語説明
6次産業化:生産から加工や販売までを手がけること
秋葉牧場は、食品製造の経験がある40歳代の人と業務委託の契約を結び、リモートでの作業と月に数回の対面で、生産の現場の改善を進めました。
5. アトツギ企業を、地方銀行や公務員でなく、キャリアアップを目指しやすい地方のスタートアップと比べる
UターンやIターンの転職先は、選ばれる理由で2つの組に分けて考えることができます。1つは、安定と年収で選ばれやすい地方銀行と地方公務員です。もう1つは、ビジネスの経験を生かしてキャリアアップを目指しやすい地方のスタートアップとアトツギ企業です。
アトツギ企業と比べる主な相手は、同じくキャリアアップを目指しやすい地方のスタートアップです。地方のスタートアップとアトツギ企業の主な違いは、次の表のとおりです。
| 会社 | 会社の成り立ち | 成長の目指し方と環境 | 経営への関わり方 | 生かしやすい経験 |
|---|---|---|---|---|
| 地方のスタートアップ | 創業者が始めた新しい製品やサービスをもとに、出資を受けて成長を目指す会社です。 | 上場などを目指して成長します。リスクの度合いが高い傾向がありますが、その分ダイナミックさがある環境です。 | 創業者の近くで、新しい事業を一から立ち上げます。 | 事業開発や、事業を一から立ち上げた経験を生かしやすい仕事です。 |
| アトツギ企業 | もともとの事業、技術、取引先を、後継者が引き継いだ会社です。引き継ぐ前でも、後継者の候補が社内で事業に携わっている会社を含みます。 | もともとの事業があるため財政基盤が安定している傾向があり、その上で変革・再成長を目指します。 | 後継者の近くで、すでにある会社の事業や仕組みを変えます。 | 営業、経営企画、経理・財務の経験を生かしやすい仕事です。 |
もともとの事業と顧客がある1つの会社の中で、後継者の近くで変革・再成長に関われることが、アトツギ企業の特徴といえます。スタートアップとの違いは、出資を受けて上場などを目指し、事業を一からつくるか、もともとの事業と財政基盤をもとに会社を変えていくかです。
どちらが合うかは、自分の経験と、どんな環境で成長を目指したいかで変わります。リスクの度合いが高くてもダイナミックな環境で事業を一から立ち上げたい方にはスタートアップを、もともとの事業と財政基盤をもとに1つの会社の変革・再成長に関わりたい方にはアトツギ企業をおすすめします。
6. アトツギ企業の見つけ方:後継者が事業を発表する場と、ふつうの転職の経路
アトツギ企業ならではの見つけ方は、後継者が新しい事業を発表する場から探すことです。スタートアップをピッチイベントで知るように、アトツギ甲子園などの発表から、後継者が進めたい事業と会社の名前を知ることができます。発表の場のほかは、ふつうの転職と同じ経路で探します。
6-1. アトツギ甲子園の結果の発表から、後継者が新しい事業を進めようとしている会社を知ることができる
アトツギ甲子園の決勝大会の結果は、県名、会社名、発表のテーマとともに経済産業省の発表に載っています。第6回の発表には、受賞した5社のほかに、地方大会に出場し、決勝大会には進まなかったものの特に評価された13人の後継者(準ファイナリスト)の会社とテーマも載っています。
例えば、岡山県の株式会社丸五は「地下足袋が日常の健康を創る」、鹿児島県の合資会社伊達醸造は「小さな町を消えゆく集落にしないために関係人口を増やす壺オーナービジネス」を発表しました。テーマから後継者が進めたい事業が分かるので、会社のサイトで事業の中身を読み、自分の経験が生きるかを考えられます。
2025年版の白書に載った過去の出場者へのアンケートでは、回答した91人のうち、事業を承継済みの人は27.5%で、多くはまだ承継していませんでした。発表した事業の案がその後どう進んでいるかは、会社のサイトや面談で確かめることをおすすめします。
6-2. 発表の場のほかは、ふつうの転職と同じ経路で探す
売上を伸ばしている中小企業の調査では、経営者に近い立場で新しい事業づくりに関わる人を外から迎えた会社の56.8%が、見つけた方法として知り合いや社員からの紹介を挙げ、ハローワーク(16.7%)、民間の職業紹介(16.2%)、求人情報サイト(11.1%)を大きく上回っています(複数回答)。
知り合いや社員の紹介で人を見つける会社が多いので、求人サイトに募集を出していない会社もあると考えられます。アトツギ企業を探す時も、求人サイトのほかに、ハローワーク、人材紹介、知り合いの紹介もあわせて使うことをおすすめします。発表の場で知った会社も、採用ページやこれらの経路で募集を確かめてから応募します。
6-3. 東京23区に住んでいるか通勤している方は、応募する求人で移住支援金を受けられるかを先に確かめる
移住支援金は、移住の前に一定の期間、東京23区に住んでいたか、東京圏から東京23区へ通勤していた人が、制度を実施している自治体へ移住して就業した場合などに、都道府県と市町村が支給するお金です。
地域の中小企業などに就業して受ける場合の条件は、移住支援金の対象として道府県のマッチングサイトに載っている求人に就業することか、プロフェッショナル人材事業または先導的人材マッチング事業を利用して就業することです。
プロフェッショナル人材事業は、各道府県のプロフェッショナル人材戦略拠点が企業からの相談を受け、関係する機関と連携して専門の人材とのマッチングを支える内閣府の事業です。ポータルサイトのよくある質問は、転職を考える人からの問いに「本事業では職業紹介を行っておりません」と答え、民間の人材紹介事業者へ問い合わせるよう案内しています。
応募する求人が移住支援金の就業の条件に当たるかは、応募の前に、移住先の都道府県や市町村に確かめることをおすすめします。
支給額は世帯で100万円以内、単身で60万円以内で、18歳未満の子どもを連れて移住する場合は1人につき最大100万円が加わります。
申請から5年以内に移住先から転出すると、返還が必要です。対象になる人の条件は内閣府の移住支援金のページに載っていますが、支給額や実施の期間は自治体ごとに違うので、移住先の都道府県や市町村が公表する情報で確かめます。
7. 入る前に、承継がどの段階にあるかと、誰が意思決定しているかを確かめる
承継がどこまで進んでいるかと、先代と後継者のどちらが意思決定しているかによって、入った後の仕事の進めやすさが変わると考えられます。
入る前に、後継者がすでに代表権を持っているかと、後継者が始めた事業が、会社の売上を支えるまでに育っているかを確かめると、承継がどこまで進んでいるかが分かります。
承継の段階ごとの特徴は、ローカルグローススタジオの記事「アトツギ経営者の3つのフェーズ」で説明しています。
7-1. 代表と株式がそれぞれいつ後継者に移るかを確かめる
会社の事業承継では、代表取締役が交代して経営権が移る手続きと、株式が移って議決権が移る手続きを別々に行うので、2つの時期がそろうとは限りません。
中小企業庁の事業承継ガイドラインによると、後継者を決めてから承継が終わるまで3年以上かかる会社が半数を上回り、10年以上かかる会社も少なくありません。ガイドラインは、いつ、何を、誰に引き継ぐかを計画に書くことを勧めています。
先代は、代表を退いた後も会社に残ることが多くあります。2023年版の白書では、先代の69.1%が、会長、顧問、相談役などとして自社で働いています。
入る前には、代表と株式がいつ後継者に移ったか、またはいつ移る予定か、承継の計画があるかを確かめることをおすすめします。承継の途中にある会社では、自分の仕事を誰に報告し、誰の承認で進めるかも確かめておくと、入った後の進め方を思い描きやすくなります。
7-2. 先代と後継者のどちらが意思決定しているかを確かめる
2023年版の白書は、承継した会社を、主に後継者が意思決定している会社と、主に先代が意思決定している会社に分けて比べています。主に後継者が意思決定している会社には、先代が経営の判断に関わらない会社、求められれば助言する会社、最終の判断を後継者に任せつつ先代も意見を言う会社が入ります。
従業員から「信認を得ている」と答えた会社は、主に後継者が意思決定している会社で86.2%、主に先代が意思決定している会社で69.2%でした。承継の前より人材育成への投資を増やした会社も、63.4%と50.2%で差があります。
主に先代が意思決定している会社では、先代の役割として、取引のある金融機関との関係の維持(43.5%)や、すでにある取引先との関係の維持(27.3%)が多く挙がっています。主に後継者が意思決定している会社では、それぞれ8.8%と10.5%です。
このため、先代が取引先との関係を持っている会社で営業や新しい取引を任される場合は、先代とどう話を進めるかが、仕事の進め方に関わります。
面接では、新しい事業や採用を最終的に誰が決めているかと、先代がいまどんな役割を担っているかを確かめることをおすすめします。後継者が意思決定している会社では、後継者と話して決めた仕事を、そのまま進めやすいと考えられます。
7-3. 新しい事業での自分の役割と権限を確かめる
2023年版の白書によると、事業再構築に取り組んだ会社のうち、先代から「反発があった」会社は5.6%、「少し反発があった」会社は14.8%で、あわせて約2割でした。従業員については、「大半から」反発があった会社が1.3%、「一部から」が28.9%で、あわせて約3割です。
新しい事業を進める上での課題としても、18.2%の会社が、先代や従業員から理解を得ることを挙げています。外から入った人が新しい事業を担う時は、後継者だけでなく、先代や長く勤める社員と一緒に仕事を進めることになります。
売上を伸ばしている中小企業の調査では、右腕を育てた工夫で最も多いのは「意識的な権限委譲」(50.6%)で、「経営陣との接点の増加」(49.0%)が続きます。入る前に、自分の役職、任される仕事の範囲、自分で決められることの範囲を確かめ、後継者がそれを社内にどう伝えるかも聞いておくことをおすすめします。
8. まとめ: アトツギ企業を地方のスタートアップと比べて候補に入れ、伸びているかと承継の段階を確かめて転職先を決める
中小企業の約74%は東京圏の外にあり、その中には、事業を継いだ後継者や後継者の候補が、家業の技術や取引先をもとに新しい事業を進める会社があります。承継した会社のうち新しい事業に取り組んだ会社が、課題として最も多く挙げているのは、人材の確保です。
売上を伸ばしている中小企業の調査では、外から迎えた右腕に、営業、経営企画、経理・財務の知識を持つ人が多くいます。首都圏などでこうした経験を積んだ方は、まず自分の経験で新しい事業のどの仕事を担えるかを整理することをおすすめします。
次に、転職で安定と年収を重視するか、経験を生かしたキャリアアップを重視するかを考えます。安定と年収を重視する方には地方銀行や地方公務員が、キャリアアップを重視する方には地方のスタートアップやアトツギ企業が候補になります。
キャリアアップを重視する場合は、アトツギ企業を地方のスタートアップと比べます。もともとの事業と財政基盤をもとに、後継者の近くで変革・再成長に関わりたい方には、アトツギ企業をおすすめします。
会社を探す時は、アトツギ甲子園などの発表から、後継者が進める事業と会社を知ることができます。発表のほかは、ふつうの転職と同じく、ハローワーク、求人サイト、人材紹介、知り合いの紹介をあわせて使い、候補を集めます。
承継した会社の売上の伸びは、平均では3年後から業種の平均を上回りましたが、年数がたつと伸びる会社と伸びない会社に分かれている可能性があります。応募する会社を絞ったら、承継からの年数、売上の動き、新しい事業の進み具合、人の採用と育成への投資を確かめます。
応募した後の面接では、代表と株式がいつ後継者に移るか、誰が意思決定しているか、自分の役割と権限も確かめ、入る会社を決めます。
タレントグローススタジオは、人材紹介のサービスとして、UターンやIターンで地方の企業へ転職したい方や、後継者が新しい事業を進めるアトツギ企業で働きたい方のご相談を受けています。地方のスタートアップとアトツギ企業のどちらで自分の経験を生かせるかを比べたい方も、ご相談ください。
タレントグローススタジオを運営する、つなぐスタジオ株式会社では「ビジネス知の機会格差をなくす」というビジョンに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容や、その他キャリア・転職に関して気になる点がありましたら、お気軽にご連絡ください。
出典と注記
- 中小企業庁「事業承継を知る」
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月)
- 中小企業庁「2021年版中小企業白書」コラム2-3-3
- 中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2-1-40図、第2-1-41図、第2-1-45図から第2-1-48図、第2-1-50図、第2-1-57図、第2-1-58図、第2-2-12図、第2-2-13図、第2-2-16図から第2-2-18図、第2-2-20図、第2-2-26図、第2-2-30図、第2-2-32図、第2-2-36図、第2部第1章第3節、第2部第2章第1節。白書に掲載された、帝国データバンクの調査と、帝国データバンク「企業概要ファイル」の再編加工による数字です。
- 中小企業庁「2024年版中小企業白書」第2-1-2図、第2-1-10図。不足している会社の応募の状況は図表のExcelによります。
- 中小企業庁「2025年版中小企業白書」第2-1-86図、コラム1-1-11、図表のExcel
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書」第1-1-44図(帝国データバンク「企業概要ファイル」「信用調査報告書」の再編加工)
- 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します」(令和5年12月13日)。東京圏とその外の企業の数と割合は、同じページの資料「都道府県・大都市別企業数、常用雇用者数、従業者総数」の各都道府県の数を足して作成しました。
- 中小企業庁「アトツギ甲子園・後継者育成」、経済産業省「第6回アトツギ甲子園決勝大会受賞者決定」(2026年2月27日)
- 内閣府 プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト、よくある質問、「プロフェッショナル人材活用ガイドブック2026」
- 内閣府(地方創生)「移住支援金」
- 総務省「地方公共団体における人材育成に関する研究会」資料(令和8年6月26日)。原資料は総務省「地方公務員における働き方改革に係る状況(令和6年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果の概要)」です。
- 官公庁の資料は、公共データ利用規約(第1.0版)に基づき、出典を示したうえで、数字の抜き出し、都道府県別の企業数の合計と割合の計算、割合の合計などの加工をして作成しました。
- 出典の閲覧日は、いずれも2026年10月30日です。

執筆者 : 佐久間 一己(さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカル&タレントグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャー、ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ役員、地方起業を経て、地方企業向けのマーケティング代理店と採用・キャリア支援事業を設立。人材紹介免許を取得。自身が地方からスタートアップへの転職を経験し、職種の理解や業界の知識を学んだ経験から、双方の立場がわかる存在としてキャリアの支援を行います。また、事業責任者・執行役員の立場で組織運営を行い、ブランドが乏しい中での採用活動の経験をもとに、地方企業・スタートアップ企業の採用支援に伴走します。


