EIR(客員起業家)とは。起業を準備する働き方のメリットと注意点、募集の選び方と、地方で事業をつくりたい人が使える国の制度

タレントグローススタジオは「キャリアを、翻訳する。」というテーマで、想いが伝わるキャリア支援の人材サービスを行っています。地方人材とスタートアップ企業、スタートアップ人材と地方企業のそれぞれの言葉を翻訳し、想いが伝わる転職活動を支援いたします。

キャリア・転職コラムでは、転職活動やキャリアアップに向けた情報を共有し、後悔のないキャリア選択や可能性の発揮を支援します。

この記事は、事業をつくってきた経験や専門性を、起業の準備に生かしたい方や、地方の企業や地域で生かしたい方に向けて書いています。

EIR(客員起業家)として参加すると、VCや大学、事業会社などに一定期間所属し、その組織の支援を受けながら起業を準備できます。この記事では、EIRとして参加して得られるものと、参加する前に知っておく注意点を説明します。

そのうえで、今の仕事を続けるかどうか、何をもとに起業するか、どこで働くかに合わせて、国内の募集から応募先を選べるように整理します。

地方の企業や地域で経験を生かしたい方に向けて、首都圏の外の大学の研究成果をもとに起業を準備できる募集も紹介します。あわせて、EIRと並べて比べられる道として、地域活性化起業人、地域おこし協力隊、起業支援金という国の制度と、大学発スタートアップへの転職も説明します。

この記事で分かること

  1. EIR(客員起業家)とは:組織に所属して起業を準備する人
  2. 参加のメリット:起業の前から組織の資源を使える
  3. 参加の注意点:参加を終えた後の進み方と契約の条件を確かめる
  4. 参加の形の選び方:今の仕事を続けるかどうかで選ぶ
  5. 応募する組織の選び方:何をもとに起業するかで選ぶ
  6. 地方で事業をつくる道:EIRを国の制度や転職と比べる
  7. 応募の流れと準備:事業を前に進めた経験を仕事の例で示す
  8. 国内のEIRの募集とプログラム:現在応募できる7件と、締め切り済みなどの一覧

1. EIRとは:VCや大学などに一定期間所属して起業を準備する人

EIR(客員起業家)は、英語のEntrepreneur in Residenceの略です。VCや大学、事業会社などに一定期間所属し、その組織の人のつながりや資源を使って起業を準備する人を指します。

期間の長さと受け入れる組織は、募集によって違います。この記事で紹介する公開された募集では、期間は数か月から2年程度です。受け入れる組織には、VC、大学、スタートアップスタジオ、事業会社があります。

用語説明

スタートアップスタジオ:複数の会社を続けて立ち上げる組織

組織の支援の中身も募集で違い、京都大学イノベーションキャピタルのEIRの募集では給与が出て、東大IPCの認定EIRでは研究者の紹介や専門家への相談を受けられます。

用語説明

東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発):東京大学が全額を出資して設立した投資会社で、東京大学をはじめとする大学や研究機関の研究成果をもとにした会社に投資するVC

参加する人は、立ち上げる会社のCEOの候補として加わるほか、COO、CFO、CTOなどの経営幹部の候補として加わることもあります。例えばVCのみらい創造インベストメンツは2025年度に、CEOの候補を中心に、COOなどの候補を創業の前から組み合わせる「チーム型EIR」を目指しました。

期間中に何をするかは、京都大学イノベーションキャピタルのEIRの例で分かります。同社は大学系のVCで、同社のEIRは、投資の実務を担当しながら大学の研究成果を探し、期間の終わりに起業して同社から独立することを目指します。

2023年2月に同社のEIRになった間澤敦氏は、京都大学の研究者が発明した発電の技術をもとに、2024年4月にライノフラックス株式会社を設立しました。2024年7月にEIRになった中小司和広氏は、京都大学と分子科学研究所の研究をもとに、量子コンピュータを開発する株式会社Yaqumoを2025年4月に設立しました。

期間の後には、自分で会社を設立するほか、すでにある大学発スタートアップの経営に加わる人もいます。

東大IPCの報告書(2025年3月)には、経営人材が関わることになった大学発スタートアップの例として、EIRが東京大学のAIスタートアップの代表取締役CEOに就いた例が載っています。

同じ「客員起業家」という名前で、初めから起業を目指さない人を迎える例もあります。経済産業省の「客員起業家(EIR)制度の活用に関するガイダンス」(2023年)は、EIRを一定期間所属した後に起業する人の役職としたうえで、海外では、主に起業の経験がある人に、当初から起業を目指さない役として付ける例もあるとしています。

国内では名古屋市が、会社を何度も立ち上げてきた起業家3人を客員起業家に任用しています。市のページは任用の目的を、起業家のノウハウを生かしたプロジェクトの推進としています。3人のうち「社会実証事業の推進リーダー」は、市の実証事業でスタートアップの相談相手を務めています。応募の前に、募集要項の職務内容で、期間の終わりに起業を目指す募集かを確かめられます。

2. 起業する前の段階から、受け入れた組織の資源を使える

EIR(客員起業家)として組織に入ると、起業する前の段階から、受け入れた組織の資源を使えます。得られるのは、事業の種を選び、一緒に起業する相手を探す期間と、組織の支援です。募集によっては、組織が持つ研究成果や資産を事業の種にでき、投資の実務を通して経営の失敗と解決の例を学べ、起業する時に組織が出資を検討します。

2-1. 転職しても副業でも、起業を準備する期間をとれる

EIRの期間は、起業の前に、事業の種を選び、一緒に起業する相手を探すことに使えます。退職して1人で準備する場合と違い、募集によっては給与や活動費を受けながら、組織が紹介する研究者や投資の担当者と会って準備を進められます。関わり方には、受け入れる組織に転職して関わる形と、今の仕事を続けながら副業で関わる形があります。

転職して関わる例が、京都大学イノベーションキャピタルのEIRの募集(EIR-iCAP)です。契約社員として1年契約(最大1年延長)で雇われ、月50万円前後の給与を受けます。期間中は、キャピタリストとして投資や企業の育成の実務を担当しながら、起業の準備をします。

元EIRの2人は、この期間に事業の種を選びました。中小司氏は、最初の3か月で約50人の教員と約120件の面談をして事業の種を探し、創業の候補を4件に絞ってから案件を決め、研究室の主要メンバーが加わる形で会社を設立しました。間澤氏は、量子コンピュータや月の水資源の探査など、京都大学の複数の技術を見たうえで、発電の技術に決めました。

副業で関わる例が、同じ京都大学イノベーションキャピタルのECC-iCAP特別会員と、東大IPCの認定EIRです。

京都大学イノベーションキャピタルのサイトでは、ECC-iCAPの会員が兼任のまま起業のプロジェクトに加わり、会社を設立する段階で専任になる流れが示されています。

東大IPCの認定EIRも、フルタイムの仕事を続けながら参加できます。このように副業で参加できる募集なら、今の収入を保ったまま起業の準備を進め、起業するかを決められます。

2-2. 募集によっては、大学の研究成果や事業会社の資産を事業の種にできる

大学系のVCや大学の募集では、大学の研究成果を事業の種にでき、研究者に会う機会も多くあります。元EIRの中小司氏は、教員との面談を重ねるうちに研究どうしのつながりが見えるようになり、それが事業のテーマを選ぶ助けになったと話しています。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2026年4月にまとめた調査は、中小司氏のように経営人材が自分で技術シーズを探して研究者に連絡した場合、経営人材は技術シーズに愛着がわき、創業の意思も強くなる傾向があるとしています。

用語説明

技術シーズ:研究の成果から生まれる事業の種

経済産業省の令和7年度の調査では、大学発スタートアップが創業メンバーのほかに役員を採る経路は、どの役職でも創業者の知人や友人を通じたものが多くなっています。EIRの募集は、研究者と知り合いでない人が大学の研究成果を探せる道の1つで、東大IPCの認定EIRのように、研究者を紹介する募集もあります。

事業会社の募集では、その会社が持つ資産を事業の種にできる場合があります。例えば南海グループの株式会社NANKAI(旧 南海電気鉄道)は、駅や沿線などのグループの資産も使える事業の案を社外から募るプログラムを設けています。このプログラムの2026年版の募集は締め切られています。

2-3. 投資の仕事を兼ねる募集では、スタートアップの経営の失敗と解決の例を学べる

投資の仕事を兼ねるVCの募集では、投資の実務を通して、スタートアップの経営の失敗と解決の例を知ることができます。元EIRの間澤氏は、キャピタリストとして働く間に知った、スタートアップの社長の失敗例や解決例が、CEOとして同じような課題に直面した時の参考になると話しています。

2-4. 組織が出資を検討する募集もあり、最初の出資者を選べるかは募集で違う

受け入れた組織が、起業した会社への出資を検討する募集があります。例えばDNX Studioは、VCのDNX Capitalが運営し、起業家の候補と一緒に事業をつくるプログラムです。

DNX Capitalの2026年2月の発表によると、プログラムでは、アイデアの発掘から顧客の検証、試作品の開発、法人化までを支援します。公式サイトでは、プログラムから生まれたスタートアップに最大5,000万円の出資を検討するとしています。

最初に出資を受ける相手を、自分で選べる募集もあります。京都大学イノベーションキャピタルは、起業する事業の領域と、起業した会社の株式のうち同社が持つ割合を、事前に取り決めていません。起業する時に、EIRは独立した起業家として同社と投資の交渉をし、同社もその時点で投資するかを決めます。

元EIRの間澤氏は、同社の持ち分が先に決まっていなかったことを利点に挙げています。会社を伸ばすために、最初にどんな株主を迎え、その株主に何を期待するかを、自分で考えて決められたからです。

反対に、受け入れた組織から出資の申し出があれば受けることを、応募の条件にしている募集もあります。DNX Studioは、創業した後にDNX Capitalのシードファンドから出資の申し出があれば、それを受けることを応募の条件にしています。

3. 参加を終えた後の進み方と契約の条件を、応募の前に確かめる

EIR(客員起業家)として参加しても、起業や出資が約束されるとは限りません。京都大学イノベーションキャピタルのように、起業や出資を保証しないと明記する募集があります。DNX Studioのように、プログラムを経た事業への出資を前提にしている募集でも、出資の前に投資委員会の審査があります。

報酬、株式の持ち分、知的財産の扱いも募集ごとに違うため、参加を決める前に確かめることと、その理由を次の表にまとめました。

確かめること確かめる理由
雇用か業務委託か、副業や兼業ができるか今の仕事を続けられるかと、収入の形が決まります。
期間と延長の条件、途中の審査期間の終わりまでに、起業するか、どの会社の経営に加わるかを決めます。自分で研究者を探す進め方では組む相手が決まるまでに時間がかかることがあり、途中の審査で参加が終わることもあります。
月の金額と、給与か活動費か期間中の生活費の見通しを立てられます。
起業の領域と株式の持ち分の決め方最初の出資者を自分で選べるかと、自分の持ち分の見通しが分かります。
期間中に生まれた知的財産が誰のものになるか参加した期間の後に、その成果を使って起業できるかが決まります。
勤め先の副業の規則と、秘密の保持や、勤め先と競合する事業をしない決まり(競業の禁止)副業で参加できるかが決まります。
どの段階からフルタイムで関わる必要があるか今の仕事を離れる時期を決められます。
勤務地、転居の必要があるか、リモートで関われるか住む場所を変える必要があるかが決まります。
起業にもスタートアップの経営への参画にも進まなかった場合に、参加を終えた後どうなるか起業や出資は約束されているとは限らないので、参加を終えた後の仕事と収入の見通しを、参加の前に立てられます。

3-1. 今の仕事を辞めて参加するなら、起業や経営への参画に進まない場合も考えておく

EIRとして参加しても、起業や経営への参画まで進まずに参加を終える人もいます。

経済産業省のガイダンスにEIRの事例として載っている、VCのデライト・ベンチャーズの社会人向けの起業のプログラムでは、3年間で約750人が応募し、約150人が参加しました。このプログラムを経て、VCから資金を得て独立に至った会社は14社でした(2022年度の時点)。

参加している期間の途中に、続けるかを判断する見極めの期間や審査を置く募集もあります。VCのジャフコグループは2022年度に、EIRとして迎えた最初の1か月を見極めの期間(プレEIR期間)としました。京都大学イノベーションキャピタルは、起業の準備の途中に「Stage Gate」という審査を置いています。

起業する案件が決まらなかった場合も、すでにある大学発スタートアップの経営に加わる道があります。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業は、VCなどに委託して経営者の候補を探し、大学の研究成果と結ぶ国の事業で、会社の設立のほか、すでにある大学発スタートアップの経営に加わることも成果に数えています。

副業で参加した場合は、起業に進まなくても、今の仕事と収入は続きます。今の仕事を辞めて参加する場合は、起業にも経営への参画にも進まなかった時の、転職を含めた次の進み方を、参加の前から考えておくことをおすすめします。

3-2. 業務委託や無償の募集で準備に専念するなら、生活費を見積もっておく

EIRとして受け取るお金は、給与、業務委託の報酬、活動費や実費の支給に分かれ、無償の募集もあります。金額を公開している募集の条件は次のとおりです。

募集参加の形公開されている金額
京都大学イノベーションキャピタル EIR-iCAP契約社員月50万円前後(能力、経験、年齢を考えて決定)
京都大学イノベーションキャピタル ECC-iCAP特別会員業務委託無償(申請により実費を支給)
東大IPC 認定EIR認定起業活動の資金を必要に応じて支給(上限月3万円、実費精算)
株式会社NANKAI beyond the Border(2026年版、締め切り済み)採択までは個人で参加、採択後は雇用検証の段階に進むと1案件につき月5万円の活動費が出て、実証実験に必要な費用も、相談のうえ最大150万円が支給されます。

公開されている金額では、雇用の募集で月50万円前後の給与から、無償の募集まで幅があります。みらい創造インベストメンツの雇用の募集のように、金額を公式サイトに書いていない募集もあり、その場合は面談などの場で、月の金額、給与か活動費か、期間と延長の条件を確かめられます。

退職して、業務委託や無償の募集で準備に専念する場合は、期間中の生活費を見積もり、貯蓄やほかの収入でまかなえるかを先に確かめることをおすすめします。

その場合は会社の健康保険と厚生年金から外れるため、配偶者の扶養に入る場合を除き、保険料を自分で納めることになります。その保険料も生活費に含めて見積もります。雇用の募集では受け入れ先の社会保険に入れる場合があり、京都大学イノベーションキャピタルの募集要項にも社会保険の完備が書かれています。

3-3. 持ち分と知的財産の扱いを、契約の前に受け入れ先に確かめる

起業した会社の株式を自分がどれだけ持てるかと、期間中に生まれた知的財産を起業に使えるかは、受け入れ先によって決め方が違います。

持ち分は、決める時期が受け入れ先で違います。経済産業省のガイダンスの事例(2022年度)では、スタートアップスタジオのStudio ENTREは、事業を始める段階で交わす契約書で、独立した後の株式の持ち方をある程度取り決めました。京都大学イノベーションキャピタルのように、起業する時に決める受け入れ先もあります。

持てる割合の高さを重く見る参加者もいます。同じガイダンスにあるVCのデライト・ベンチャーズの事例では、試作品の開発まで進んだ参加者が、活動の自由度とともに、自分が持てる株式の割合の高さを魅力に挙げました。

知的財産は、受け入れ先のものになる募集もあります。同じガイダンスの事例では、NANKAI(当時の南海電気鉄道)のプログラムで、参加中に生まれた知的財産は同社のものになる前提とされ、参加者は、事業化が決まれば同社に転職することに合意していました。

持ち分も知的財産の扱いも受け入れ先で違うため、契約の前に、受け入れ先に次の3点を確かめておくことをおすすめします。起業した会社の株式を受け入れ先がどれだけ持つか、その割合をいつ決めるか、期間中に生まれた成果を起業に使う時に受け入れ先の許諾や対価が必要か、の3点です。

NEDOの2026年4月の調査には、経営人材確保支援事業の委託を受けた組織の取り組みとして、会社をつくる時に株主どうしの契約を結ぶことを勧め、資本金と株式の割合の決め方を助言した例が挙がっています。こうした助言を受けられるかも、応募の前に確かめられます。

3-4. 副業で参加するなら、勤め先の規則と、秘密の保持や競業の決まりを確かめる

副業で参加する場合は、EIRとしての契約が業務委託でも、勤め先の副業の規則の対象になる場合があります。勤め先の規則が、業務委託で受ける仕事や、自分が事業主として行う仕事も副業に含めている場合があるためです。会社が就業規則を作る時の手本になる厚生労働省のモデル就業規則の解説でも、副業や兼業に、雇用のほか、これらの仕事を含めています。

勤め先は、会社の秘密が漏れる場合や、競合して会社の利益を害する場合に、副業を制限できます。EIRとして取り組む事業が勤め先の事業に近い場合は、勤め先に副業を届け出る前に、秘密の保持と競業の決まりを確かめておくことをおすすめします。

3-5. 副業で始められる募集でも、フルタイムが必要になる時期を応募の前に確かめる

副業で始められる募集でも、事業が進むと、すべての時間を使って関わるよう求められることがあります。

DNX Studioの公式サイトによると、業界を調べて事業の機会を探す最初の段階(Deep Dive)は、最低でも週15時間から20時間程度の参加が目安で、参加する人は今の仕事と並行できます。試作品をつくる次の段階(Assemble)からは、DNX CapitalのフルタイムのEIRとして活動することを想定しています。

経済産業省のガイダンスは、VCがEIR自身の事業の構想をもとに受け入れる場合について、関わる時間と期間の目安を示しています。初めの2か月から5か月は月20時間から80時間ほど関わり、その後の約6か月はほぼすべての時間を使って試作品を開発し、最後の約6か月で会社を設立する、という目安です。

株式会社NANKAIのbeyond the Borderの2026年版も、最終審査を通過した場合にフルタイムで事業を進められることを、応募の条件にしていました。副業で応募する場合も、どの段階で今の仕事を離れるかを、応募の前に考えておくことをおすすめします。

3-6. 業務委託なら、報酬、知的財産、契約を終える時の条件を書面で確かめる

自分では従業員を雇っていない個人として業務委託で参加する場合は、フリーランスに仕事を頼む事業者が守る決まりを定めたフリーランス・事業者間取引適正化等法(2024年11月施行)が当てはまります。受け入れ先はこの法律により、業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面かメールで示す必要があります。

知的財産についても決まりがあります。期間中に生まれた知的財産を、受け入れ先が委託の目的を超えて譲渡させたり、使うことを許諾させたりする場合は、その範囲を書面などで示し、譲渡や許諾の対価を報酬に含める必要があります。成果を起業に使えるかに関わるので、範囲と対価が書面に書かれているかを確かめることをおすすめします。

契約を終える時の決まりもあります。同じ法律により、受け入れ先が従業員を雇う会社などで、契約の期間が6か月以上(更新して6か月以上続く場合を含む)なら、受け入れ先は契約を途中で解除する時や更新しない時に、原則として30日前までに予告する必要があります。期間が6か月に満たず、更新もない契約には、この決まりは当てはまりません。

経済産業省のガイダンスは、業務委託の期間は数か月から6か月以内を基本としています。6か月に満たない契約もあるため、契約の期間と更新の見込みを書面で確かめておくことをおすすめします。

(2026年11月3日時点)

4. 今の仕事を続けるなら副業で参加できる募集を、専念するならフルタイムの募集を選ぶ

EIR(客員起業家)として参加する形には業務委託と雇用があり、東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)のように組織が認定する形もあります。参加の形によって、収入の形と期間が変わります。今の仕事を続けられるかは、参加の形に加えて、その募集が副業や兼業での参加を認めているかと、勤め先の副業の規則で決まります。

4-1. 業務委託か雇用かに加えて、副業で参加できるかを募集ごとに確かめる

次の表は、経済産業省のガイダンスをもとに、業務委託と雇用の違いを比べたものです。

項目業務委託雇用
期間数か月から6か月以内が基本です。1年から2年が基本です。
業務調査と検証、概念実証、起業の準備のように、段階ごとに業務を決め直します。VC(ベンチャーキャピタル)に雇用される場合は、投資の仕事から起業の準備までを広く担い、契約時に細かく決めません。
特徴兼業や副業で始めやすく、契約を終えやすい形です。社員の立場になり、所属先の資源を使いやすくなります。
適した場合起業の時期がまだ決まっておらず、事業の検証から始めたい場合です。経営幹部の候補として、専念する意志が固まっている場合です。
募集の例京都大学イノベーションキャピタルのECC-iCAP特別会員、DNX Studio(VCのDNX Capitalが運営)京都大学イノベーションキャピタルのEIR-iCAP、みらい創造インベストメンツ

業務委託の募集にも、フルタイムに近い参加を求めるものがあります。例えばVCのANRIが運営するAurora by ANRIは業務委託ですが、副業での参加の枠を設けておらず、週40時間程度の参加を求めています。

東大IPCの認定EIRは、公式サイトでは参加の形を「認定」としています。認定された人は、研究者の紹介、起業の経験者が事業づくりに直接加わる支援、弁理士や弁護士への相談を無償で受けられ、活動の資金は必要に応じて月3万円まで実費で支給されます。

認定された人は、フルタイムの仕事を続けながら参加でき、起業の準備の段階ごとに置いた目標で、認定を続けるかが判断されます。契約の種類や期間、起業した後の出資の扱いは、面接などの場で確かめることをおすすめします。

今の収入を保ちながら事業の種を探したい方には、副業や兼業で参加できる募集をおすすめします。起業の準備に専念したい方には、雇用の募集か、フルタイムで関わる業務委託の募集が適しています。

4-2. 勤め先に籍を置いたまま起業するなら、出向起業という道もある

大企業などに勤めていて会社の理解を得られるなら、「出向起業」という道もあります。勤め先の社員のまま会社を設立し、出向などの形でその会社の経営者として事業を進める仕組みです。

出向起業では、勤め先が給与を負担したり出資したりするなど、勤め先の負担が生じることが想定されています。経営者になった社員がつくった会社には、そのまま独立する道と、買収などで勤め先に戻る道があります。

一般社団法人社会実装推進センター(JISSUI)は、出向起業の認定と助成金(原則1社25万円)の交付を行っています。2026年度の一次公募を受け付けていて、締め切りは2026年11月25日の正午です。

2025年度の第一公募では、7社が出向起業として認定されました。例えば富士通の社員が立ち上げた株式会社BLUABLEは、藻場をつくり、ブルーカーボンの測定、申請、販売までを手がけています。

用語説明

藻場:海藻や海草が茂る、沿岸の浅い海の場所

ブルーカーボン:海の生き物が取り込んで海にためる炭素

清水建設の社員が立ち上げた株式会社セコナレは、建設業の現場監督が行う手配の業務を、デジタルで効率よくする事業を手がけています。

EIRとの違いは、誰の支援を受けて起業するかです。EIRは、VCや大学など受け入れた組織に所属し、その組織の支援を受けて起業を準備します。出向起業では、勤め先の社員のまま起業し、勤め先が給与などを負担することが想定されています。勤め先の理解を得て起業したい方は、出向起業もEIRの募集と比べられます。

(2026年11月3日時点)

5. 応募する組織は、何をもとに起業するかで選ぶ

起業のもとにするものによって、EIR(客員起業家)を募集する組織の種類と、募集の形が分かれます。もとにするものには、大学の研究成果、自分の事業の構想、受け入れる組織が持つ案や資産があります。

5-1. 大学の研究成果で起業するなら、大学系のVCなどの募集に応募する

現在応募できるEIRの募集の多くは、大学の研究成果をもとに起業する人を求めています。大学系のVCでは、京都大学イノベーションキャピタル、東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)、みらい創造インベストメンツなどがEIRを募集しています。

国の事業のもとでも、経営者の候補が探されています。その1つが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業です。NEDOはVCなどの組織に委託していて、個人は直接応募できず、委託を受けた組織の募集に応募します。

委託を受ける組織は年度ごとに変わり、2026年度はArchetype Ventures、STATION Ai、upto4、エル・ティー・エス、ケイエスピー、リバネスなどです。個人に向けて経営人材を公募しているかは組織ごとに違うため、各組織のページで確かめることをおすすめします。

この事業を通じて会社を設立した例もあります。委託を受けたエル・ティー・エスの発表によると、岡山大学では、大学病院の薬剤部の講師と、医療系スタートアップでの経験が長い経営人材が組み、2026年1月に株式会社健康科学評価アカデミーを設立しました。

大学系でないVCも、研究成果をもとに起業する人をEIRとして募集しています。ANRIのAurora by ANRIは、科学技術をもとに起業を目指す人を、業務委託で、1年間程度の参加を前提に募集しています。

Aurora by ANRIでは、技術シーズは自分のネットワークから見つけても、ANRIのネットワークから探してもよく、事業の領域に制限はありません。

Archetype Venturesは、NEDOの経営人材確保支援事業の案件として、業務委託かプロボノでEIRを募集しています。このEIRの仕事は、全国の大学や研究機関の技術シーズを探し、自分の専門や関心をもとに事業にできるかを検討することです。

用語説明

プロボノ:報酬を受けずに専門の力で協力する形

大学の研究成果をもとにした募集でも、参加の形や求める経験は募集ごとに違うので、応募の前に条件を確かめることをおすすめします。

5-2. 事業の構想を自分でつくるか、組織の案から始めるかで、募集の型を選ぶ

事業の構想を誰が持つかで、募集は2つの型に分かれます。経済産業省のガイダンスは、VCがEIR自身の事業の構想をもとに受け入れる型と、スタートアップスタジオの中に事業の構想が先にあり、それを事業にする創業者の候補としてEIRを採用する型を分けています。

参加者が構想をつくる募集の例が、VCのDNX Capitalが運営するDNX Studioです。DNX Studioは起業家の候補を随時募集していて、応募の時点で具体的な創業のアイデアはなくてもよく、参加する人が自分で課題を感じる事業の領域を対象にします。

DNX Studioは名前にスタジオと付きますが、取り組む領域は参加する人が選びます。対象は、企業向けのソフトウェアをインターネット経由で提供する事業(B2B SaaS)の創業に限られ、領域はその中から選びます。採択されると、DNX Capitalの投資の担当者と一緒に特定の業界を調べ、業界の調査をまとめた文書(White Paper)を作ります。

組織が構想を持つ形の例が、2022年度の経済産業省の実証事業に参加したガイアックスのスタジオです。事業の案を出すのはガイアックス、事業を進めるのはEIRと役割を分け、市場の規模の推計や専門家との検証を済ませたウェルネスの領域の案をEIRに渡しました。EIRは、入ってすぐ、ガイアックスが案を検討する最後の段階に加わりました。

共同創業を目的にしたCo-Founder Fundのスタジオも、事業の案を持たない起業家の候補を迎えるEIRの制度を置いています。

自分で事業の構想を考えたい方には、DNX Studioのように参加者が構想をつくる募集をおすすめします。

組織が調べた案を形にするところから始めたい方は、Co-Founder Fundのように客員起業家の制度を置くスタジオの案内を確かめることをおすすめします。

5-3. 事業会社の資産を使いたいなら、社外から事業の案を募るプログラムを候補にする

株式会社NANKAI(旧 南海電気鉄道)の「beyond the Border」は、テーマを自由にしたうえで、駅や沿線、不動産、観光資源、顧客との接点などのグループの資産も使える事業の案を、社外から募るプログラムです。

2026年版は、会社員や個人事業主が個人で応募でき、本業を続けながら参加できました。検証の段階に進むと1案件につき月5万円の活動費が出て、最終審査で事業に採択されると、原則として同社と雇用契約を結ぶ条件でした。募集のページのよくある質問では、関西の外で働く人も参加でき、期間中のメンタリングは原則オンラインで行うとしていました。

NANKAI(当時の南海電気鉄道)の2025年12月の発表によると、同社は2022年から南海グループの外の人を対象にしたプログラムを行っていて、プログラムから生まれた2つの事業が、2025年に会社として設立されました。

2026年版のように本業を続けながら参加できる形なら、勤め先を辞めずに事業の案を試し、採択されてから転職を決めたい方の選択肢になります。また、事業化の形には、会社の設立のほか、南海グループの中で事業を進める形もあるため、会社を設立するか、グループの中で事業を育てるかをまだ決めていない方にも向いています。

NANKAIの2026年版は締め切り済みで、次回の時期は発表されていません。関心のある会社のプログラムの案内を、定期的に確かめることをおすすめします。

(2026年11月3日時点)

6. 地方で事業をつくるなら、EIRの募集を国の制度や転職と比べる

現在応募できるEIR(客員起業家)の募集は7件です。このうち、働く場所が首都圏と書かれているものは2件、京都が2件です。京都の2件のうち、ECC-iCAP特別会員の勤務場所には「リモート可」と書かれています。

首都圏の外の大学の研究成果をもとに起業を準備できる募集は、地方で事業をつくる道の1つです。地方での事業づくりを支える国の制度や、大学発スタートアップへの転職も、EIRの募集と並べて比べられます。

6-1. 首都圏の外の大学の研究成果なら、京都大学系のVCと国の事業の募集を候補にする

候補になるのは、京都大学イノベーションキャピタル、Archetype Ventures、Palette by LTSの募集です。

京都大学イノベーションキャピタルのEIR-iCAPは、国立大学の研究成果を使った起業を準備する募集です。採用された人は、京都市左京区の京都大学の施設で働き、関西か通勤できる範囲へ転居する必要があります。

同じ組織のECC-iCAP特別会員は、副業や兼業で関われる業務委託の形です。同社の採用情報のページでは、ECC-iCAP特別会員の勤務場所をEIR-iCAPと同じ京都大学の施設としたうえで、「リモート可」と書いています。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2026年4月にまとめた調査では、経営人材確保支援事業で経営人材が研究成果の側と関係を築いた124件のうち、約3分の2にあたる80件で、経営人材の拠点は関東でした。

調査は、大学発スタートアップの経営人材の獲得が個人的なつながりや偶然の出会いに頼りがちなことを課題に挙げ、その背景に、経営人材が関東に集まっていて、地方からは近づきにくいことがあるとしています。首都圏の外の大学の研究成果をもとに起業を準備したい方には、全国の経営人材を対象にした次の募集があります。

中国・四国、東海、九州の大学の研究成果をもとにしたい方は、エル・ティー・エスが運営する「Palette by LTS」に応募できます。EIRという名前の募集ではありませんが、副業から始めて経営への参画まで段階を踏める募集で、経営人材の募集は2027年2月までです。

Palette by LTSは、NEDOの経営人材確保支援事業として、3つの地域の大学の研究成果と全国の経営人材を結ぶ取り組みです。経営の経験は必須ではなく、副業や兼業から始められます。ただし、勤め先の副業の規則を確かめる必要があります。

Palette by LTSの公式サイトのよくある質問では、全国から応募でき、面談や一部の活動はオンラインで行い、研究テーマや関係づくりの状況に応じて、現地を訪ねることを相談する場合があるとしています。

Palette by LTSでは、最初は秘密を守る契約のような軽い関係から始め、副業や業務委託を経て、経営幹部として経営に加わる、と段階を踏んで進みます。関係をつくる間は給与はなく、事務局から少額の謝金が出ます。

この取り組みを通じて、広島大学で開発された材料をもとにメモリを開発する株式会社マテリアルゲートには、2025年3月にCOOが加わりました。このCOOは、地方銀行で資金調達と産学連携を、関西TLOで大学の知的財産のライセンスを担当してきた人です。

地域を限らずに研究成果を探したい方は、Archetype VenturesのEIRの募集にも応募できます。同社は首都圏に限らず全国の大学や研究機関の研究成果を探していて、地方の大学や国立研究開発法人に大きな機会があるとみています。VCや起業の経験は必須ではなく、副業や兼業でも応募できます。

Archetype Venturesの採用のページでは、このEIRの勤務地を「リモート中心」としています。

NEDOの経営人材確保支援事業のあり方を調べた報告書(2025年3月)は、この事業を受託した事業者の取り組みから、地方で経営人材を得るために首都圏の経営人材がリモートで関わる場合、研究者と関係を築く段階へ進む例は少ないとしています。また、関係を築く段階からは、定期的に対面で話す必要があるとまとめています。

地方で暮らしながら関わりたい方は、勤務地、転居の必要があるか、リモートで関われるか、研究者と対面で会う頻度を、応募の前に確かめることをおすすめします。

このほか、関西で大学発スタートアップに関わりたい方は、大阪大学ベンチャーキャピタルのTSUNAGUにも登録できます。大学発スタートアップへの参画や起業に関心がある人の登録制度で、EIRの募集ではありません。

6-2. 地域活性化起業人、地域おこし協力隊、起業支援金もEIRと比べる

地方での事業づくりが目的なら、自治体の仕事に関わる総務省の制度や、起業の費用を助成する国の地方創生の制度も、EIRの募集と並べて比べられます。

地域活性化起業人と地域おこし協力隊は、EIRとは取り組む仕事が違います。EIRは、受け入れた組織の支援を受けて起業を準備します。

地域活性化起業人は、都市部の企業の社員が専門の知識を生かして自治体の仕事をする制度です。地域おこし協力隊は、都市部から地方に移り住んで地域の活性化に取り組む制度で、任期を終えた後に同じ地域で起業する人が多くいます。

次の表の金額のうち、地域活性化起業人と地域おこし協力隊の欄は、国が自治体の費用を負担する1人あたりの上限です。報償費は自治体が本人に払う謝礼や報酬に当たる費用で、本人に払われる額は自治体や協定ごとに決まります。

制度関わり方期間お金の目安
地域活性化起業人(副業型)副業として、個人で自治体と契約して働きます。6か月から3年報償費などの上限は1人年間100万円、旅費の上限は年間100万円です。
地域活性化起業人(企業派遣型)勤め先から自治体へ派遣されて働きます。6か月から3年国の措置の上限は1人年間610万円で、給与は企業と自治体の協定で決まります。
地域おこし協力隊都市部から地方へ移住して活動します。おおむね1年から3年で、地場産業で起業や事業承継をする場合は最長5年に延ばせます。報償費等は350万円(最大450万円)、その他の活動経費は200万円で、あわせて1人550万円が上限です。起業の経費は100万円で、人を雇う場合などは200万円です。
起業支援金地域の課題を解く事業を起こす人に、都道府県などが費用の一部を助成します。募集の時期は都道府県ごとに決まります。最大200万円で、起業に必要な経費の2分の1までです。

地域活性化起業人の副業型は、三大都市圏などの企業に勤める人が、勤め先の承諾を得て、個人として自治体と業務委託か雇用で契約し、月4日以上かつ月20時間以上働く形です。受け入れる自治体に月1日以上滞在することも要件です。同じ時期に活動できるのは1つの市町村だけです。企業派遣型は、三大都市圏などの企業の社員が、勤め先から派遣されて働きます。

副業型で関わった例が、総務省の令和7年度の事例集に載っています。住友商事の社員は長野県飯田市で、2024年11月から、南信州シードルを地域のブランドにするためのマーケティングの戦略づくりと、道の駅などでの試飲と販売の会を担いました。

石井食品の社員は北海道訓子府町で、まちづくり会社を立ち上げるチームに加わり、創業の計画づくりを進めました。どちらも自治体から任された業務で、参加した人が自分で起業するための準備ではありません。都市部の企業の社員で、副業として地方の自治体の仕事に関わりたい方は、副業型をEIRの募集と比べられます。

地域おこし協力隊では、直近5年間に任期を終え、活動した市町村に定住した5,038人のうち、約46%にあたる2,296人が起業しました(2025年5月1日時点の調査)。

2026年度からは、国が自治体の費用を負担する措置を、任期を終えた後3年以内に起業する人の経費にも使えるようになりました。

起業支援金は、東京圏の外などで地域の課題を解く事業を起こす人が対象で、2026年度は43道府県が実施します。

東京23区に住んでいるか通勤している人が、東京圏の外(東京圏の中の条件不利地域を含みます)へ移って起業し、起業支援金の交付の決定を受けた場合は、移住支援金(世帯100万円以内、単身60万円以内)の対象にもなります。移った先に5年以上住む意思があることなどが条件です。

6-3. 加わりたい会社が決まっているなら、大学発スタートアップへの転職を検討する

転職とEIRは、加わる会社を決める時期と、決めるまでの立場が違います。転職では、応募の時点で加わる会社が決まり、その会社に雇われて給与を受け、会社にある製品やチームで事業を担います。加わりたい会社が決まっているなら、大学発スタートアップへの転職を検討することをおすすめします。

EIRでは、受け入れた組織に一定期間所属し、支援を受けながら事業の種や組む相手を選んで起業を準備します。加わる会社は期間の中で決まり、自分で会社を設立するほか、すでにある会社の経営に加わる人もいます。組織の支援を受けながら事業の種や組む相手を選びたいなら、EIRの募集を検討することをおすすめします。

大学発スタートアップでは、研究者がCEOを務める会社が多くあります。経済産業省の令和7年度の調査では、CEOの最終経歴を答えた495社のうち、大学や公的研究機関の教職員・研究者が166社で最も多くなっています。こうした会社では、事業や財務を担う役員を、創業の後に外から採ることもあります。

ただ、事業の執行や財務を担う人を求めながら、採れていない会社もあります。同じ調査で、役員の獲得の状況に回答した527社のうち、COOを必要としながら獲得できなかった会社は17%、CFOでは20%でした。

役員だけでなくマネジャーにも、採れていない役割があります。同じ調査のマネジャーの獲得の状況では、マーケティング・営業を必要としながら獲得できなかった会社が26%、戦略・事業開発では25%で、どちらも技術研究開発の14%より高い割合です。事業をつくってきた方が経験を生かしやすいこれらの役割も、転職先を探す時の手がかりになります。

地方の大学発スタートアップの探し方は、記事「ディープテックのなかでも、ビジネススキルが役立つ分野とステージ」で紹介しています。

(2026年11月3日時点)

7. 事業を前に進めた経験を、自分の仕事の例で示せるように準備する

EIR(客員起業家)の応募から起業までの流れは募集によって違いますが、公開されている例では次のように進みます。

  1. 募集を探します。公募のほか、紹介で採用する受け入れ先もあり、経済産業省の2022年度の実証事業にも例があります。
  2. 書類を出します。京都大学イノベーションキャピタルは履歴書と職務経歴書を、みらい創造インベストメンツは履歴書、職務経歴書、志望理由を求めています。
  3. 面接を受けます。京都大学イノベーションキャピタルは2回から3回、みらい創造インベストメンツは約3回の面接です。
  4. 参加した後、見極めの期間や審査を経ます。東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)や京都大学イノベーションキャピタルのように、起業の準備の段階ごとに目標や審査を置き、続けるかを判断する募集があります。
  5. 起業する案件を決めて会社を設立するか、すでにある大学発スタートアップの経営に加わります。京都大学イノベーションキャピタルの元EIRの中小司氏は、期間の初めに事業の種を探し、候補を絞ってから創業する案件を決めました。

書類と面接に向けては、受け入れる側が求める経験を、自分の仕事の例で示せるように準備しておくことをおすすめします。経済産業省のガイダンスでは、VC、スタートアップスタジオ、事業会社のどれもが、事業を前に進める力と、損益の管理や組織の運営の経験をEIRに求めています。

大学の研究成果をもとに起業する募集では、技術を事業にし、顧客を開拓して市場をつくる事業開発の経験も示せるようにしておきます。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査は、大学発スタートアップの初めの段階で、この事業開発の経験を経営人材の中核になる経験としています。

8. 国内のEIRの募集と、起業を目指す人向けのプログラム

国内のEIR(客員起業家)の募集と、起業を目指す個人が参加できるプログラムは次のとおりです。このうち、現在応募できるEIRの募集は7件で、その多くは研究成果をもとに起業する人を求めています。

8-1. 現在応募できる募集

  • 京都大学イノベーションキャピタル EIR-iCAP: 雇用(契約社員、1年契約、最大1年延長)。国立大学の研究成果を使った起業を準備します。働く場所は京都市左京区で、関西か通勤できる範囲へ転居する必要があります。
  • 京都大学イノベーションキャピタル ECC-iCAP特別会員: 業務委託(無償、実費の支給あり)。国立大学の研究成果を使った起業を準備します。副業や兼業で関われます。働く場所はEIR-iCAPと同じ京都市左京区の京都大学の施設で、「リモート可」とも書かれています。
  • 東大IPC 認定EIR: 認定の形で、フルタイムの仕事を続けながら参加できます。技術の商用化を目的にした起業を支援します。
  • みらい創造インベストメンツ EIR 起業準備コース: 雇用(契約社員、1年契約、最大1年延長)。投資の仕事をしながら起業を準備します。働く場所は東京都港区芝浦の同社の事務所などです。
  • ANRI Aurora by ANRI: 業務委託で、1年間程度、週40時間程度の参加です。副業での参加の枠は設けていません。科学技術をもとにした起業を目指し、事業の領域に制限はありません。働く場所は東京都港区六本木のCIRCLE by ANRIです。
  • Archetype Ventures EIR: 業務委託かプロボノで、NEDOの経営人材確保支援事業の案件です。全国の大学や研究機関の技術シーズを探し、事業にできるかを検討します。勤務地は「リモート中心」と書かれています。
  • DNX Studio: 業務委託(期間中の報酬の支払いも可能)。3か月から6か月のプログラムで、随時募集しています。対象はB2B SaaSの創業です。よくある質問では、品川のSPROUNDを使えるほか、リモートワークなど柔軟に働いてほしいとしています。業界を調べる最初の段階(Deep Dive)は今の仕事と並行でき、試作品をつくる段階(Assemble)からはフルタイムで活動する想定です。

働く場所やリモートで関われるかを含め、条件は募集の時期ごとに変わることがあるため、応募の前に各組織に確かめることをおすすめします。

8-2. 締め切り済みで、次回の時期が発表されていない募集

  • 株式会社NANKAI(旧 南海電気鉄道) beyond the Border: 個人で応募し、本業を続けながら参加でき、採択後は原則として同社に雇用されます。テーマは自由で、南海グループの資産を活用することも可能です。2026年版は2026年1月21日に締め切りました。

8-3. 募集していないか、募集の時期を公表していない組織

  • 東北大学ベンチャーパートナーズ: 仙台市の東北大学の大学系VCです。採用のページに、募集はしていないと書かれています。
  • 大阪大学ベンチャーキャピタル: NEDOの経営人材確保支援事業の報告書(2026年3月)で、EIRの制度を準備し、経営人材がリモートで参画できる環境を整えたとしています。採用のページに、EIRの人材の募集は終了したと書かれています。
  • 名古屋市 客員起業家: 市が任用する客員起業家で、会社を何度も立ち上げてきた起業家が、「社会実証事業の推進リーダー」などの肩書きで市のプロジェクトを進めます。市のページは客員起業家自身の起業には触れておらず、次の募集の時期も書かれていません。
  • ジャフコグループ: 東京のVCです。2022年の発表で業務委託の客員起業家を募集し、2024年の記事によると、2023年からは体系的な起業支援のプログラムに移りました。
  • 慶應義塾: 東京の大学です。研究者と、副業・兼業で関わる客員起業家を、ビズリーチ上で結ぶ仕組み(慶應版EIR)を2022年に発表しました。
  • 東京科学大学(旧東京工業大学): 東京の大学です。副業・兼業に限った客員起業家を、2023年10月にビズリーチで募集しました。
  • 千葉大学: 千葉市の大学です。仕事を続けながら挑戦できるEIRの制度を2024年に導入し、1期生として4人を採用しました。
  • Co-Founder Fund: スタートアップスタジオを併設したシードファンドで、事業の案を持たない起業家の候補を、客員起業家として迎える制度を置いています。活動の拠点はxLINK 丸の内永楽ビルです。

8-4. 起業や大学発スタートアップへの参画を目指す人向けのプログラム

  • Palette by LTS: エル・ティー・エスがNEDOの経営人材確保支援事業として運営し、中国・四国、東海、九州の大学の研究成果と全国の経営人材を結びます。経営人材の募集は2027年2月までで、副業や兼業から始め、業務委託を経て経営に加わる段階制です。
  • Beyond Next Ventures Innovation Leaders Program: 今の仕事と並行して創業を体験するプログラムです。20期(2026年12月から2027年3月の約100日間)の公募概要が掲載され、テーマは食と環境のテクノロジーです。
  • 大阪大学ベンチャーキャピタル TSUNAGU: 大学発スタートアップへの参画や起業に関心がある人のメンバー登録の仕組みで、会社員も参加できます。
  • Studio10x: 無料の伴走プログラムで、建設、不動産、まちづくり、物流、環境の領域で2027年3月末までに会社を設立する人が対象です。募集のページでは、応募の締め切りは2026年12月25日(定員に達し次第終了)で、関連のイベントは東京で開かれます。
  • NEDO NEP開拓コース: 研究成果をもとにした起業前の個人に、月25万円(上限300万円)の活動費を出す国の制度です。2026年度の公募は締め切りました。

(2026年11月3日時点)

9. まとめ: 参加を終えた後の進み方と契約の条件を確かめ、自分に合う募集を選ぶ

EIR(客員起業家)として参加すると、VC(ベンチャーキャピタル)や大学などに一定期間所属し、組織の支援を受けながら、事業の種を選び、一緒に起業する相手を探せます。受け入れる組織に転職して参加する形のほか、今の仕事を続けながら副業で参加できる募集もあります。募集によっては、起業する時に組織が出資を検討します。

一方で、起業や出資が約束されるとは限らず、報酬、持ち分、知的財産の扱いは募集ごとに違います。参加を終えた後の進み方と契約の条件を、応募の前に確かめます。

次に、今の仕事を続けるかを決めます。続けるなら副業や兼業で参加できる募集を選び、勤め先の副業の規則と、フルタイムが必要になる時期を確かめます。

準備に専念するなら雇用やフルタイムで関わる募集が候補になり、業務委託や無償の募集で専念する場合は、保険料も含めて期間中の生活費を見積もっておきます。勤め先に籍を置いたまま会社を設立して経営したい方は、出向起業もEIRの募集と比べられます。

応募する組織は、何をもとに起業するかで選びます。大学の研究成果なら、大学系のVCやNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の経営人材確保支援事業の委託を受けた組織が候補です。

事業の構想を自分で考えたいなら参加者が構想をつくる募集が、組織が調べた案から始めたいならCo-Founder Fundのように組織が構想を持つ募集が、事業会社の資産を使いたいなら事業会社の募集が候補になります。

地方で事業をつくりたい方は、首都圏の外の大学の研究成果をもとにできる京都大学イノベーションキャピタルやArchetype Venturesの募集、副業から経営への参画まで段階を踏めるPalette by LTSに加え、地域活性化起業人、地域おこし協力隊、起業支援金を並べて比べられます。

大学発スタートアップで事業や財務、営業や事業開発を担うには、EIRとして参加するほかに、役員やマネジャーとして転職する道もあります。加わりたい会社が決まっているなら転職を、組織の支援を受けながら事業の種や組む相手を選びたいならEIRの募集を検討することをおすすめします。

応募先を決めたら、書類と面接に向けて、事業を前に進めた経験や事業開発の経験を、自分の仕事の例で示せるように準備しておくことをおすすめします。

タレントグローススタジオは、人材紹介のサービスとして、地方やスタートアップでの事業づくりに関わる転職のご相談を受けています。EIRとして参加する道と並べて、地方の企業やスタートアップで事業づくりに携わる仕事も比べたい方は、ご相談ください。

タレントグローススタジオを運営する、つなぐスタジオ株式会社では「ビジネス知の機会格差をなくす」というビジョンに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容や、その他キャリア・転職に関して気になる点がありましたら、お気軽にご連絡ください。

出典と注記


キャリア・転職の相談はこちら

企業の採用支援・人材紹介サービスの申し込みはこちら