ディープテックのなかでも、ビジネススキルが役立つ分野とステージ

タレントグローススタジオは「キャリアを、翻訳する。」というテーマで、想いが伝わるキャリア支援の人材サービスを行っています。地方人材とスタートアップ企業、スタートアップ人材と地方企業のそれぞれの言葉を翻訳し、想いが伝わる転職活動を支援いたします。

キャリア・転職コラムでは、転職活動やキャリアアップに向けた情報を共有し、後悔のないキャリア選択や可能性の発揮を支援します。

この記事は、営業、事業開発、財務、管理部門、ソフトウェア開発などで経験を積み、その専門性を地方で生かしたい方に向けて書いています。

地方でこうした専門性を生かせる転職先の1つに、大学の研究成果をもとに設立された大学発スタートアップがあります。こうした会社は、首都圏の外の大学からも多く生まれています。その一部は、長い研究開発と大きな資金を必要とする技術を事業にする、ディープテックと呼ばれる会社です。

ディープテックと呼ばれる分野は、20を超えます。素材や医療のほかに、宇宙、核融合、量子、防衛、農業や食品の技術も入ります。

ビジネスの経験が生きる時期と仕事は、技術の分野と会社の段階(ステージ)で大きく違います。分野による違いは、製品を誰が買うかと、売るまでに何を経るかから生まれます。そこでこの記事では、分野を5つのカテゴリーに分け、どのビジネスの経験がいつ生きるかをカテゴリーごとに見ます。

そのうえで、会社の段階ごとに求められる経験を見ます。続けて、首都圏の外にある会社の数と地域ごとに多い分野、営業や財務の人の採用の状況を見て、経験の種類ごとに生かしやすい分野と段階の目安をまとめます。会社の探し方と、応募の前の準備、入る前に確かめることも書きます。

この記事で分かること

  1. ディープテックの分野:20を超え、5つのカテゴリーに分けられる
  2. 営業や事業開発の経験が早くから生きやすい分野:部品や素材、ソフトウェア
  3. 事業計画の経験が承認の前から生きやすい分野:医療機器と再生医療
  4. 国の公募や調達に合わせた事業開発の経験が生きやすい分野:宇宙、防衛など
  5. 承認まではビジネスの経験を生かせる場面が限られる分野:創薬
  6. 会社の段階:創業後は事業の運営と拡大、創業前は新規事業開発
  7. 首都圏の外の大学発スタートアップ:地元や移住先の大学から探せる
  8. 大学発スタートアップが採れなかった職種:技術開発より営業や財務が多い
  9. 経験の種類ごとの、生かしやすい分野と段階の目安
  10. 会社の探し方:国のデータベースと、地域の大学や支援の組織
  11. 応募の前の準備:研究者が多い分野ほど、研究分野の基本を学ぶ
  12. 入る前に確かめること:会社の段階と働く条件

1. ディープテックと呼ばれる分野と、5つのカテゴリー

次の表では、ディープテックと呼ばれる20を超える分野を、製品を誰が買うかと、売るまでに何を経るかで5つのカテゴリーに分け、それぞれでビジネスの経験が生きる場面を並べました。

カテゴリー主な分野ビジネスの経験が生きる場面
部品・素材・装置を企業に売る素材、エレクトロニクス、半導体・通信、ロボティクス、環境・エネルギー(蓄電池、太陽電池など)、造船(次世代の船舶、自動で航行する船)、合成生物学によるバイオ素材、農業や食品の機械と素材法人営業の経験が量産の前から生き、量産化の実証の段階では、生産や調達、事業会社との提携の経験も生かせると考えられます。
ソフトウェア、データ、サービスで売るAI、IoT、ソフトウェア・アプリ、サイバーセキュリティ、物流のシステム、農業や食品のアプリとデータのサービス受託やサービスで売る会社が多く、営業や事業開発の経験が、自社の製品の完成前から生きると考えられます。
国の承認を経て売る医療医療機器(医療に使うAIを含む)、再生医療国の承認などの手続きを見すえた事業計画の経験が、承認の前から生きると考えられます。
国の基金や調達が事業を支える宇宙、フュージョン(核融合)、量子、防衛、防災とインフラの管理、空飛ぶクルマと地域の公共交通の自動運転、海洋の観測と海上の安全国の公募や調達に合わせて事業を計画し、政府や大企業と組む事業開発の経験が生きると考えられます。
承認の前に製薬企業と組む創薬創薬(医薬品)承認を受けるまで薬を売れないため、ビジネスの経験が生きる場面は、主に製薬企業との提携と資金調達に限られると考えられます。

同じ技術でも、会社の売り方で入るカテゴリーが変わります。例えば医療に使うAIは、医療機器に当たる場合があり、その時は「国の承認を経て売る医療」に入ります。農業や食品の技術も、機械や素材として売る会社は「部品・素材・装置を企業に売る」に、アプリやデータのサービスとして売る会社は「ソフトウェア、データ、サービスで売る」に入ります。

応募する会社がどのカテゴリーに入るかは、その会社が誰に何を売ろうとしているかで確かめられます。

部品・素材・装置の会社と、ソフトウェアやデータの会社が主力の製品やサービスをどの形で売っているかを、経済産業省が2026年1月から2月に大学発スタートアップに行った調査(回答527社)で見ると、次のとおりです。

技術の分野(回答した社数)企業向けの製品部品・中間財サービス・コンサルティング(受託研究開発を含む)一般消費者向けの製品
素材(34社)21%47%32%0%
エレクトロニクス(26社)54%19%23%4%
ロボティクス(11社)64%9%18%9%
環境・エネルギー(45社)49%7%36%9%
AI・IoT(55社)55%2%35%9%
ソフトウェア・アプリ(62社)39%0%56%5%

素材では部品・中間財として売る会社が、ソフトウェア・アプリでは受託研究開発を含むサービスで売る会社が最も多く、ほかの分野では企業向けの製品が最も多くなっています。一般消費者向けの製品を主力にする会社は、どの分野でも1割未満です。

2. 営業や事業開発の経験が早くから生きやすい分野:部品や素材、ソフトウェア

部品や素材、装置を企業に売る分野と、ソフトウェアやデータ、サービスで売上を立てる分野では、自社の製品の量産や完成の前から、営業や事業開発の経験が生きると考えられます。部品や素材では部品・中間財や企業向けの製品として、ソフトウェアでは受託やサービスとして売る会社が多く、部品や製品を採用してもらう営業や、受託やサービスで売る仕事が早くから生まれるためです。

2-1. 部品や中間財を売る会社では、量産の前から法人営業の経験が生きると考えられる

部品や中間財は、買い手のメーカーが製品に組み込んで使います。そのため、部品や中間財を売る会社では、自社が量産を始める前から、メーカーの開発の担当者と仕様を詰め、部品として採用してもらう法人営業の仕事が生まれると考えられます。

素材では部品や中間財として売る会社が最も多く、エレクトロニクス、ロボティクス、環境・エネルギーでは企業向けの製品として売る会社が最も多くなっています。企業向けの製品を売る会社でも、法人営業の経験を生かせます。

国のディープテック・スタートアップ支援事業には、大企業が経営の課題から決めたテーマに、スタートアップと大企業が組んで応募する区分もあります。この区分では、大企業がスタートアップの試作品を有償のサンプルとして買い、実際の環境で確かめます。このように、量産の前から大企業に試作品を買ってもらう場面でも、法人営業の経験を生かせると考えられます。

2-2. 量産化の実証の段階では、生産や調達と、事業会社との提携の経験も生かせる

素材やエレクトロニクスの会社が量産化の実証の段階に進むと、メーカーへの法人営業の経験に加えて、生産や調達の経験も生かせる場面があります。量産化の実証は、試作を終えた技術で、事業会社と組んで、製品として作れる規模まで生産を広げる段階です。

国のディープテック・スタートアップ支援事業は、この段階を独立した支援の区分にし、事業会社の参画を求めています。参画する事業会社は、共同の研究開発や、生産した製品の調達、販路の開拓などでスタートアップと組むことが想定されています。そのため、この段階では、事業会社と組む条件を詰める事業開発の経験も生かせると考えられます。

2-3. 受託やサービスで売る会社では、製品ができる前から営業や事業開発の経験が生きる

ソフトウェアやデータで売上を立てる分野には、受託やサービスの形で売る会社が多くあります。国の調査によると、ソフトウェア・アプリでは受託研究開発を含むサービスで売る会社が最も多く、AI・IoTでも約3分の1の会社がサービスで売っています。

受託やサービスの形では、顧客の依頼を受けて仕事を納めることで売上を立てます。そのため、営業や事業開発の経験を持つ人は、自社の製品が完成する前から、顧客を見つけ、依頼を聞いて何をつくるかを決め、契約を結びます。ソフトウェア開発の経験を持つ人は、その依頼に応えてソフトウェアをつくります。

3. 事業計画の経験が承認の前から生きやすい分野:医療機器と再生医療

医療機器と再生医療の会社では、国の承認などの手続きを見すえた事業計画の経験が、医療機器では研究開発の初期から、再生医療では条件と期限つきの承認を目指す段階から生きると考えられます。医療機器と、人の細胞を使う製品などの再生医療等製品は、医薬品と同じように、国の承認などの手続きを経てから売るためです。

3-1. 医療機器の会社では、事業計画の経験が研究開発の初期から生きると考えられる

医療機器の会社では、事業計画の経験が、研究開発の初期から生きると考えられます。国の支援事業が、研究開発の初期から薬事や事業の戦略を支え、研究の段階から製造販売の企業と組む計画を求めているためです。

AMEDの医療機器等研究成果展開事業は、研究開発の初期の段階から、薬事戦略、知財戦略、事業戦略などのコンサルティングと、企業とのマッチングを行います。

用語説明

薬事:医薬品や医療機器などを売るのに要る、国の承認や認証、届出の手続きを計画し、進める仕事

この事業の開発実践タイプの令和8年度の公募要領では、大学などの研究者が代表を務める場合、2年度目の中間評価の報告書を出す時までに、医療機器の製造販売業を持つ企業に所属し、クラスⅡ以上の医療機器を市場に出した経験のある人がサブリーダーに加わることを必須にしています。

3年度目は、そのサブリーダーが研究開発を率いることを求めています。企業が代表を務める場合は、代表する企業がこれらの条件を満たすことを求めています。どちらの場合も、研究の段階から、医療機器の製造販売業を持つ企業が加わる計画が必要です。

3-2. 条件と期限つきの承認を目指す会社では、承認の後の検証まで計画する経験が求められる

再生医療等製品には、条件と期限を付けて承認する仕組みがあります。この仕組みで承認を目指す会社では、承認を受けた後の数年間に続ける検証と、その費用と体制まで、事業計画に含めることになります。販売を進めながら臨床のデータを集め、期限内に申請し直す計画を立てる仕事では、事業計画の経験が求められます。

この仕組みでは、国が限られた症例から有効性を推定して承認します。会社が期限内に改めて申請して承認を受けられなければ、条件と期限つきの承認は効力を失います。

2024年7月の中央社会保険医療協議会の資料によると、条件と期限つきの承認を受けた4つの製品に最初に付いた期限は5年から7年で、うち1製品は期限が3年延長されています。

4. 国の公募や調達に合わせた事業開発の経験が生きやすい分野:宇宙、防衛など

宇宙、核融合、量子、防衛、インフラの管理などの分野では、国の公募や調達に合わせて事業を計画する経験と、政府や大企業と組む事業開発の経験、大きな額の資金を集める経験が生きると考えられます。こうした分野では、国の基金や実証の事業が開発の資金を出し、政府や自治体が製品の買い手になる仕組みもあるためです。

分野をまたぐ国の仕組みの1つに、SBIR制度があります。この制度では、令和4年度の補正予算で2,060億円の基金を設け、スタートアップによる先端の技術の大規模な実証を支えていて、2024年12月時点で119件のプロジェクトが実証に着手しています。主な例には、民間ロケット、核融合、空飛ぶクルマ、地域の公共交通の自動運転、農林水産業と食品の技術があります。

用語説明

SBIR制度:国が政策や調達のニーズから研究開発の課題を決め、スタートアップなどの研究開発から大規模な実証までを支える制度

SBIR制度には、成果を政府が調達しやすくする入札と契約の特例もあります。

4-1. 宇宙と核融合では、国の基金の公募に合わせた事業計画の経験が生きると考えられる

宇宙と核融合では、国の基金や実証の事業が、技術を事業にするまでの大きな資金の出どころの1つになります。そのため、公募の要件に合わせて事業の計画を立てる経験や、大きな額の資金を集める経験が生きると考えられます。

宇宙では、国の宇宙戦略基金が、民間企業や大学による輸送、衛星、探査の技術の開発、実証、商業化を支えています。基金には2023年度から2025年度の補正予算で合わせて8,000億円が計上され、国は速やかに総額1兆円規模の支援を目指しています。

フュージョン(核融合)エネルギーでは、国の戦略が、世界に先駆けて2030年代に発電を実証することを目標にしています。SBIR制度の実証の事業も、核融合発電に必要な要素技術を実証し、国内外の核融合の装置に組み込むことを目指すスタートアップを支えています。

4-2. 防衛とインフラの管理では、政府や自治体に売る事業開発の経験が生きると考えられる

防衛と、道路や河川などのインフラの管理の分野では、国や自治体が製品の買い手になる道があります。そのため、政府や自治体の求めを聞いて製品を提案し、調達の手続きに合わせて売る事業開発の経験が生きると考えられます。

防衛では、防衛装備庁と経済産業省が、防衛の求めとスタートアップの技術を引き合わせ、調達への参入につなげる取り組みを進めています。インフラの管理では、道路や河川の維持管理にデジタルツインを使う技術や、衛星の画像で国の道路や河川を監視する技術が、SBIR制度の実証の対象になっています。

4-3. 量子では、使い道を利用者と探す事業開発の経験が生きると考えられる

量子の会社では、企業や公的機関などの利用者と組んで使い道を探す事業開発の経験が生きると考えられます。国の戦略(2023年4月)が、実用化の課題の1つに量子技術を効果的に使える場面が少ないことを挙げ、量子技術を使った暗号などの通信では、公的機関が早くから利用する側に立つことも進めるとしているためです。

5. 承認まではビジネスの経験を生かせる場面が限られる分野:創薬

創薬の会社では、承認を受けるまで薬を売れず、製薬企業と組めるかどうかも主に研究の成果とデータで決まると考えられます。そのため、承認までにビジネスの経験が生きる場面は、主に、提携する製薬企業を探して条件を詰める仕事と、研究を続けるための資金調達に限られると考えられます。

5-1. 臨床の前の段階では、ビジネスの経験で左右できる部分は小さいと考えられる

臨床の前の段階では、製薬企業と組めるかが主に研究の成果とデータで決まるため、人と資金の多くは研究の成果を高めることに使われると考えられます。そのため、ビジネスの経験で左右できる部分は小さいと考えられます。

創薬では、薬を売れるようになるまでに長い年月と大きな費用がかかります。日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所が、協会に加盟する製薬企業22社の回答から2012年から2022年の研究開発を調べた結果では、国内と海外の両方で開発する場合、基礎研究から申請までの期間の合計は14年4か月で、基礎研究を始めてから承認までの成功確率は3.4%でした。

この調査が基礎研究から申請までの段階ごとの費用を合わせて求めた研究開発費用は、発売に成功した新薬1つについて130億7,200万円でした。

5-2. 提携の仕事では、製薬企業を探し、研究のデータで価値を説明して条件を詰める

薬を売れない間に製薬企業と組んで開発を進める方法の1つに、開発や販売の権利を開発の途中で渡すライセンスアウト契約があります。

医薬産業政策研究所の政策研ニュース(2023年3月)によると、上場している国内の創薬ベンチャーのライセンスアウト契約のうち、人で試す臨床試験(治験)の前の研究の段階で結んだ契約の割合は、2012年から2016年の47%から、2017年から2021年には60%に上がりました。

提携の仕事では、まず、自社の開発品に関心を持ちそうな製薬企業を探し、提携を提案します。そのうえで、研究のデータをもとに開発品の価値を製薬企業に説明し、契約の条件を詰めます。

5-3. 上場を目指す会社では、資金調達を重ねる仕事が長く続くと考えられる

上場を目指す創薬の会社は、長い期間をかけて多くの資金を集めます。医薬産業政策研究所の政策研ニュース(2025年11月)で新興の創薬企業を調べた記事によると、治験に進んだ開発品を持つ国内の創薬ベンチャーのうち上場した42社は、創業から上場まで平均8.9年(中央値8.4年)かかっていました。

同じ記事で調達額が分かる26社は、上場までに平均45.2億円(中央値29.3億円)を集めていました。上場を目指す国内の創薬の会社では、上場までの長い期間、研究の進み具合を投資家に示しながら資金調達を重ねる仕事が続くと考えられます。

6. 創業後は段階が進むほど事業の運営と拡大の経験が求められ、創業前から加わる道もある

同じ分野の会社でも、段階によって求められる経験は変わります。創業後の会社に加わる場合と、創業前の研究開発から加わる場合に分けて、段階ごとに見ます。

6-1. 創業後に求められる経験は、技術の説明から事業の運営と拡大へ移る

転職先として求人を出すのは、すでに設立された会社で、その段階は会社ごとに大きく違います。

経済産業省の調査に回答した527社では、「PoC前」が19%、「PoC後」が18%、「単年度赤字」が30%、「単年度黒字かつ累積赤字」が11%、「単年度黒字かつ累積赤字解消」が22%でした。

用語説明

PoC(概念実証):技術が事業として成り立つかを試作や実験で確かめる段階

このうち「PoC前」と「PoC後」を合わせると37%で、創業後も技術を事業にする途中の会社が少なくありません。

会社の段階が進むにつれて、求められる経験も変わります。経済産業省のワーキンググループの資料(2022年)は、ディープテックのスタートアップの人材の課題を、段階ごとに次のように挙げています。

早い段階(シードからアーリー)の課題は「ビジネスの文脈で理解・説明できる人材(メンバー)がいない」こと、中間の段階(ミドル)の課題は事業計画を立てて事業を運営できる人が少ないこと、後の段階(レイター)の課題は事業の拡大に適した人が少ないことです。

そのため、創業して間もない段階では、技術をビジネスの言葉で説明する仕事が求められ、段階が進むと、事業計画を立てて事業を運営してきた経験や、事業を広げてきた経験を生かしやすくなります。

技術をビジネスの言葉で説明する仕事とは、例えば、研究者の技術が顧客のどんな課題を解くのか、どれだけの市場があるのかを、投資家や取引先の企業に伝わる言葉でまとめる仕事です。

6-2. 創業前の研究開発の段階から、経営者候補として加わる道がある

創業前に加わる先は、研究者が進める研究開発のプロジェクトや、大学やベンチャーキャピタルが進める起業の準備です。

JST(科学技術振興機構)の大学発新産業創出プログラム(START)のうち、ディープテックの起業を目指すプログラム(D-Global)では、経営者候補が、創業前の研究開発の段階から加わります。研究開発の期間は3年程度までで、経営者候補は原則として採択から1年以内に加わる必要があります。

経営者候補は、事業の開発だけでなく、研究開発のプロジェクトの管理も担うことが想定されています。

6-3. 創業前に研究を選び市場を調べる仕事には、新規事業開発の経験を生かせる

D-Globalのようなプログラムや、大学系のベンチャーキャピタルなどの募集を通じて創業前に加わる人は、事業の種になる研究を選び、市場を調べ、技術をビジネスの言葉で説明するといった、研究以外の仕事を担います。こうした仕事には、新規事業開発の経験を生かせます。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が大学発スタートアップの経営人材確保支援事業のあり方を調べた報告書(2025年3月)は、中心になって経営を担う人材の経歴の例として、大手メーカーや総合商社での新規事業開発の経験と、戦略コンサルティング会社での経営戦略の立案の経験を挙げています。

同じ報告書は、この事業を受託した16社の取り組みから、創業までを基礎研究、応用研究、概念実証(PoC)、創業準備・創業の4つの段階に分け、段階ごとに経営人材に求めるスキルを並べています。

この報告書では、基礎研究の段階には、事業の種になる研究を探すためのスキルとして、市場の調査が挙がっています。応用研究の段階には、市場規模を算定することと、基本特許の出願など知的財産を守ることの大切さを理解していることが並びます。

6-4. 概念実証から創業にかけては、資本計画と資金調達の経験が求められる

同じNEDOの報告書は、応用研究の次の概念実証の段階に、資本計画の策定と、応用特許の出願と、他社の特許を侵害しないかを確かめる調査を挙げています。資本計画は、いつ、誰から、いくら資金を集め、株式をどう分けるかを決める計画です。

その次の創業準備・創業の段階には、資金調達、チームづくり、法務・会計の基礎知識が挙がっています。

知財や法務・会計の仕事は、外部の専門家に頼む方法もあります。同じ報告書も、事業の計画が進むほど経営人材の役割がはっきりし、専門的なスキルを別の人材に頼る必要が出てくるとして、知財や法務・会計の仕事は外部に頼むとよいとしています。

7. 首都圏の外にも大学発スタートアップは多く、地元や移住先の大学から探せる

地方でディープテックの会社を探す時は、大学の研究成果をもとに設立された大学発スタートアップが主な候補になると考えられます。大学と関わりのある会社を広く数えた経済産業省の調査から、研究成果をもとにした会社を見分ける方法と、首都圏の外の社数、大学ごとと地域ごとの違いを見ます。

7-1. 研究成果をもとにした会社は、国の調査の「研究成果ベンチャー」の区分で見分ける

求人に「大学発」と書かれていても、その会社が大学の研究成果をもとに設立されたとは限りません。大学発スタートアップという言葉が指す範囲が広いためです。

大学発スタートアップは、大学の研究成果や技術、学生や教職員とのつながりがある会社を広く指します。国の調査ではこうした会社を大学発ベンチャーと呼び、2025年10月末時点で6,220社ありました。

この6,220社を大学との関係で見ると、大学の研究成果をもとに設立された会社(調査の区分では「研究成果ベンチャー」)は39%で、学生が関わる会社(「学生ベンチャー」)は28%でした。

大学発ベンチャーには、ほかにも、設立した後に大学と共同研究をした会社などが含まれます。そのため、研究成果をもとにした大学発スタートアップは、調査の「研究成果ベンチャー」の区分で絞り込むと見つけられます。経済産業省の大学発ベンチャーデータベースにも、この区分を示す列があります。

7-2. 大学発ベンチャーの半数を超える約3,300社は、首都圏の外に本社がある

大学発ベンチャーの本社の所在地を経済産業省の調査で見ると、所在地が不明の会社と海外の会社を除いた6,096社のうち、本社が首都圏の4都県の外にある会社は3,265社で、53.6%でした。調査は社数を本社の所在地で数えているため、東京に本社を置き、地方に研究や開発の拠点を持つ会社は、東京の会社に入ります。

次の表は、地域ごとの社数と、そのなかで社数の多い都道府県です。地域は経済産業局の管轄の区分で、新潟県、山梨県、長野県、静岡県は関東に、福井県は近畿に入ります。

地域2025年度の社数社数の多い都道府県
北海道・東北520社北海道 205社、宮城県 152社
関東のうち東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の外429社茨城県 169社、静岡県 107社、新潟県 63社
中部391社愛知県 234社
近畿1,221社大阪府 503社、京都府 377社、兵庫県 173社
中国・四国305社広島県 85社、岡山県 68社
九州・沖縄399社福岡県 186社

7-3. 首都圏の外の大学からも、研究成果をもとにした会社が多く生まれている

「研究成果ベンチャー」の区分に入る会社の数を大学ごとに見ると、経済産業省の報告書の上位19大学のうち、12大学は本部が首都圏の4都県の外にあります。次の表は、その12大学と、この区分の会社の数です。大阪大学、京都大学、名古屋大学、東北大学からは、それぞれ150社以上生まれています。

大学「研究成果ベンチャー」の区分の社数(2025年度)地域
大阪大学218社近畿
京都大学194社近畿
名古屋大学162社中部
東北大学150社北海道・東北
筑波大学115社関東(茨城県)
九州大学83社九州・沖縄
神戸大学83社近畿
北海道大学62社北海道・東北
岡山大学46社中国・四国
立命館大学35社近畿
岐阜大学35社中部
鹿児島大学29社九州・沖縄

7-4. 多くの地域で、バイオ・ヘルスケアと素材の会社の割合が関東より高い

経済産業省の調査で主力の製品やサービスの技術の分野を答えた527社を地域ごとに見ると、「その他」を除けば、どの地域でもバイオ・ヘルスケアの会社の割合が最も高くなっています。

バイオ・ヘルスケアの割合は、近畿と中国・四国で3割以上で、関東の20%より高くなっています。素材は北海道・東北と中部で関東の3倍以上、環境・エネルギーは中国・四国、北海道・東北、中部で関東の2倍以上です。一方、AI・IoTとソフトウェア・アプリは、関東より割合が高い地域がありません。

次の表は、地域ごとの分野の割合です。表の分野のほかに、地域ごとに18%から26%の会社が「その他」を選んでいます。

技術の分野北海道・東北(77社)関東(181社)中部(74社)近畿(124社)中国・四国(33社)九州・沖縄(38社)
素材13%3%11%6%6%5%
エレクトロニクス8%4%3%4%9%5%
ロボティクス1%1%7%1%0%5%
環境・エネルギー13%6%12%6%15%8%
AI・IoT8%16%8%10%0%5%
ソフトウェア・アプリ9%17%5%10%9%13%
医療機器8%6%5%6%9%3%
バイオ・ヘルスケア19%20%26%33%30%26%
航空宇宙3%2%1%2%0%3%

ロボティクスと航空宇宙は、全国でもそれぞれ11社と10社の回答で、地域ごとの割合は数社の回答をもとにしています。

経済産業省の大学発ベンチャーデータベースに載る「研究成果ベンチャー」の区分の会社のうち、技術の分野を答えた会社では、バイオ・ヘルスケアか医療機器の会社が中部(53社中27社)と近畿(111社中54社)で、どちらも約半数でした。関東は198社中80社で、約4割です。

このように、地域によって見つけやすい会社の分野は違います。ビジネスの経験が生きる時期と仕事は分野によって違うため、自分の経験を生かせる分野の会社がその地域にどのくらいあるかを確かめておくと、地元と移住先のどちらで探すかを決める材料になります。

8. 営業、事業開発、財務の人を採れなかった大学発スタートアップは、技術開発の場合より多い

8-1. 営業や事業開発のマネジャーを採れなかった会社は、技術開発の場合より多い

経済産業省の調査に回答した527社のうち、マーケティング・営業のマネジャーを「必要だったが、獲得できなかった」と答えた会社は26%、戦略・事業開発のマネジャーでは25%でした。技術研究開発のマネジャーの14%より高い割合です。

次の表は、マネジャーと一般社員のそれぞれで、その分野の人を必要としながら獲得できなかった会社の割合です。

分野マネジャー一般社員
マーケティング・営業26%21%
戦略・事業開発25%21%
法務・知財19%18%
海外展開18%18%
財務・経理16%16%
総務・人事など16%14%
生産・調達実務15%15%
技術研究開発14%15%

8-2. 役員では、COOとCFOを採れなかった会社が、CEOやCTOの場合より多い

役員では、COOを必要としながら獲得できなかった会社が17%、CFOでは20%で、CEOの3%、CTOの9%より高くなっていました。

8-3. 首都圏の外では、経営を担う人の候補が特に少ないとされる

首都圏の外については、NEDOの経営人材確保支援事業を受託した地域のベンチャーキャピタルが、経営人材の候補の少なさを報告しています。

大阪大学ベンチャーキャピタルは2026年3月の報告書で、ディープテックのスタートアップを担う経営人材の候補は、関西を含む首都圏以外の地域で特に少ないとしています。九州を拠点に投資するFFGベンチャービジネスパートナーズは、国内の経営人材が首都圏に集中していることを、九州の大学発スタートアップの深刻な課題としています。

8-4. 研究者がCEOを務める会社では、COOやCFOとしてCEOを補う道がある

CEOの最終経歴を答えた495社のうち、大学・公的研究機関の教職員・研究者だった会社は166社で、約3社に1社でした。回答の区分のなかで最も多い経歴です。

このように研究者がCEOを務める会社では、企業で事業の執行や財務を担ってきた人が、COOやCFOとしてCEOを補う道があります。

ただ、創業メンバーより後に加わる役員は、創業者の知り合いから採られることが多くあります。経済産業省の報告書で、創業メンバー以外の役員をどの経路で採ったかを見ると、どの役職でも「創業家の知人・友人関係」が多くなっています。

創業者とのつながりがない方は、地域の大学のプラットフォームが開く研究者との催しや、大学系のベンチャーキャピタルや自治体などが設けている人材バンクから関わり始められます。

用語説明

プラットフォーム:地域の大学が連携して大学発スタートアップの創出に取り組む組織

9. 自分の経験の種類から、生かしやすい技術の分野と会社の段階を選ぶ

次の表は、経験の種類ごとに、生かしやすい分野と段階の目安と、その分野の会社の割合が関東より高い地域です。

地域の列の割合は、技術の分野を答えた527社の数字です。中国・四国と九州・沖縄は回答した会社が少なく、1社の違いで割合が約3ポイント変わります。

経験の種類経験を生かしやすい分野経験を生かしやすい段階その分野の会社の割合が関東より高い地域
営業・マーケティング部品や素材、装置を企業に売る会社と、ソフトウェアやデータを受託やサービスで売る会社です。創薬の会社では、承認を受ける前に生かせる場面は限られます。部品や素材を売る会社では量産の前から、受託やサービスの会社では創業して間もない段階からです。企業向けの製品を売る会社では、製品を売り始める段階からです。素材はどの地域でも関東の3%を上回ります。環境・エネルギーは近畿を除く地域で関東の6%より高く、エレクトロニクスは中国・四国9%、北海道・東北8%、九州・沖縄5%で関東の4%より高くなっています。
事業開発・新規事業ソフトウェアやデータを売る会社と、部品や素材、装置を企業に売る会社です。医療機器と再生医療の会社では承認の前から事業計画に生かせます。宇宙や防衛などの会社でも、国の公募や調達に合わせた事業開発に生かせると考えられます。創薬の会社では、主に提携の交渉に生かせます。創業前の基礎研究から創業準備までは、分野を問わず生かせます。創業の後は、ソフトウェアの会社では間もない段階から、部品を売る会社では量産の前からです。営業・マーケティングの行と同じ地域です。医療機器は北海道・東北8%と中国・四国9%が関東の6%より高いものの、どの地域でも1割未満です。量子や防衛などは、地域ごとの数字がありません。
財務・資金調達承認までに長い期間と大きな費用がかかる創薬と、承認を受けた後も検証の費用がかかる再生医療の会社です。国の基金や実証の事業で大きな額の資金を扱う宇宙や核融合などの会社でも生かせると考えられます。概念実証から創業準備の段階と、資金調達を重ねて事業を広げる段階です。創薬の会社を含むバイオ・ヘルスケアは、関東の20%に対し、近畿33%、中国・四国30%、中部26%、九州・沖縄26%です。核融合などは、地域ごとの数字がありません。
管理部門(法務・知財、総務・人事、財務・経理)技術の分野を問いません。創業の後、人が増える段階からです。創業のころの知財や法務・会計の仕事は、外部の専門家に頼む方法もあります。分野を問わない経験のため、地域ごとの割合の違いは関係しません。
ソフトウェア開発AI・IoTとソフトウェア・アプリの会社です。医療に使うAIの会社は、医療機器として承認や認証の手続きを経る場合があります。製品やサービスを形にする段階からです。受託やサービスで売上を立てる会社では、創業して間もない段階から開発の仕事があります。AI・IoTとソフトウェア・アプリは、関東より割合が高い地域がありません。
経営CEOが研究者出身の大学発スタートアップです。創業前の研究開発の段階から、創業の後に事業を広げる段階までです。分野を問わない経験のため、地域ごとの割合の違いは関係しません。経営人材の候補を研究者と引き合わせる取り組みは、北海道から九州・沖縄までの各地域にあります。

管理部門、ソフトウェア開発、経営の経験を持つ方や、医療機器のようにどの地域でも割合が低い分野、量子や防衛のように地域ごとの数字がない分野を選ぶ方は、地域の割合で絞らずに、経済産業省の大学発ベンチャーデータベースで、地元や移住先の大学から生まれた会社を探すことをおすすめします。

10. 地方の大学発スタートアップの探し方:国のデータベースと、地域の大学や支援の組織

10-1. 経済産業省の大学発ベンチャーデータベース

経済産業省は、大学発ベンチャーの調査の結果と、掲載を許諾した会社の情報をまとめた大学発ベンチャーデータベースを、Excelのファイルで公開しています。2026年6月12日の更新で、登録されている会社は1,456社です。

データベースには、本社の都道府県、関連する大学、主力の製品やサービスの技術の分野、大学との関係、事業の段階、会社のホームページの列があります。地元や移住先の都道府県か大学と、自分の経験を生かせる分野で絞り込み、大学との関係の列で「研究成果ベンチャー」を選ぶと、研究成果をもとにした大学発スタートアップの候補を探せます。

登録されているのは掲載を許諾した会社だけで、調査で分かった6,220社の約4分の1です。2016年度から2024年度の調査の時点の情報も含まれるため、事業の段階などは、会社のホームページで新しい情報を確かめる必要があります。

10-2. 経済産業局などが選んだ地域の有望なスタートアップ

データベースのほかに、地域の有望な会社を探す手がかりには、経済産業局や自治体が選ぶJ-Startupの地域版もあります。2025年12月31日時点で、北海道、東北、関西、新潟、中部、九州、中国・四国、沖縄の8つのプログラムで、369社が選ばれていました。

地域版のプログラムには、研究成果を生かすスタートアップを選ぶ類型を設けているものもあります。例えば関西のプログラムは、地球規模の課題に対して研究成果を活用して解決に取り組む「ディープテックスタートアップ型」を類型の1つにしています。このプログラムが2026年1月に新しい制度で初めて選んだ19社のうち、大学発スタートアップは8社でした。

10-3. 地域の大学などが開く、研究者や会社の人と会える催しや募集

データベースや地域版のJ-Startupで探せるのは、すでに設立された会社です。まだ起業していない研究者や、すでにある会社の人と直接会うには、地域の大学や支援の組織が開く催しや募集に参加する方法があります。

JSTのスタートアップ・エコシステム共創プログラムでは、地域ごとに大学が連携する9つのプラットフォームが、大学発スタートアップの創出に取り組んでいます。公募の要領は、各プラットフォームに、経営者候補の人材と研究者が出会える仕組みをつくることを求めています。

関わり方は、副業で関わる経営人材の募集、首都圏で開く研究者との催し、人材バンクへの登録などです。首都圏の外の地域の取り組みは、次のとおりです。

  • 北海道・東北: 北海道大学が中心になるプラットフォームのHSFCは、北海道出身の方や北海道へのUIJターンを考える方を主な対象に、首都圏で研究者とのマッチングの催しを開いています。2026年1月には、HSFCから経営人材のデータベースの構築を受託したパーソルテンプスタッフが、副業で関わる経営人材の候補の募集を始めたと発表しました。
  • 北海道・東北: 北洋銀行の子会社の北海道共創パートナーズは、2024年度に採択されたNEDOの経営人材確保支援事業で、北海道の大学の技術や大学発スタートアップと、北海道で働きたい経営人材のマッチングに取り組みました。2026年12月からは、upto4と共に、HSFCに参画する札幌市内の大学の研究者とCXO候補の人材のマッチングのプログラムを運営する予定です。
  • 北海道・東北: 東北大学が中心になり、東北と新潟の大学が加わるプラットフォームのMASPは、創業前の技術シーズをセミナーで紹介し、研究者と創業メンバーの候補が個別に面談する場を設けてきました。
  • 北海道・東北: 東北大学ベンチャーパートナーズは、NEDOの経営人材確保支援事業で、副業やプロボノの形を中心に、経営人材の候補と東北の大学の技術のマッチングをしています。
  • 関東: 信州大学が中心になり、長野県、山梨県と北関東の大学が加わるプラットフォームのIJIEは、研究者と経営人材が対面で会う催しを設けています。
  • 中部: 金沢大学と北陸先端科学技術大学院大学が中心になり、北陸の大学が加わるプラットフォームのTeSHは、営業、事業企画、マーケティングなどの経験を持つ首都圏の方と研究者が会う催しを、2025年11月に東京で開きました。催しから約4か月後までに4組(6名)のマッチングが成立したと発表されています。
  • 中部: 名古屋大学が中心になる東海のプラットフォームのTongaliでは、2024年6月から、Tongaliの研究開発の資金に採択された研究者と、CxOの候補のマッチングの支援が始まりました。
  • 近畿: 京都大学が中心になるプラットフォームのKSACは、研究者とCxO候補を引き合わせて大学発スタートアップの創出を支援していて、2026年10月には大阪で両者の交流会も開かれました。
  • 近畿: 大阪大学ベンチャーキャピタルは、TSUNAGUというプログラムで、起業やスタートアップへの参画に関心がある方をメンバーとして登録しています。会社員の方も、このプログラムに参加できます。
  • 中国・四国: エル・ティー・エスの「Palette by LTS」は、中国・四国、東海、九州の大学の技術シーズと、全国の経営人材のマッチングをしています。経営人材の募集は2027年2月末まで受け付ける予定で、経営の経験は必須ではありません。関わり方は、秘密保持契約などを結んで始め、副業や業務委託を経て、CxOとして経営に加わるという段階を踏む形です。
  • 九州・沖縄: 福岡県は、九州大学と連携して高度経営層の人材バンク(福岡県CXOバンク)を運営しています。2024年度の登録者は703名、マッチングの成立は46件でした。
  • 九州・沖縄: 九州大学と九州工業大学が中心になるプラットフォームのPARKSは、ビジネスプランの構築やマーケティングの調査など、主にビジネスの面の検証を担う人材(プレCxO)を、副業やフリーランスの形で全国から募ってきました。選ばれた方は福岡県CXOバンクに登録されます。2026年6月の発表では、研究者とマッチングしたプレCxOが、約9か月にわたって事業計画の精緻化や実証実験の渉外を支えた例が紹介されています。

用語説明

技術シーズ:事業の種になる研究の成果

多くの取り組みは、催しへの参加や副業から関わり始める形です。自分の経験の種類と、関わりたい分野を伝えたうえで、どの研究者や会社と会えるかを、それぞれの組織に相談することをおすすめします。

10-4. 創業前から加われるEIR(客員起業家)の募集

創業前の研究開発の段階から関わりたい方には、EIR(客員起業家)として、大学の研究成果をもとにした起業の準備に加わる道もあります。

京都大学イノベーションキャピタルは、国立大学の研究成果をもとに起業を準備するEIR-iCAP(契約社員)と、業務委託で関わるECC-iCAP特別会員を募っています。

同社の採用情報のページによると、EIR-iCAPの勤務場所は京都大学の施設で、採用されると関西か、京都大学の施設へ通勤できる範囲へ転居する必要があります。ECC-iCAP特別会員の勤務場所の欄には、京都大学の施設の所在地とともに「リモート可」と書かれています。

条件は募集の時期ごとに変わることがあるため、応募の前に同社に確かめることをおすすめします。

EIRという言葉の組織ごとの意味の違いや、国内の募集の契約の形、報酬、働く場所は、EIR(客員起業家)の記事で比べています。

(2026年11月3日時点)

11. 研究者が多い分野の会社に応募する時ほど、研究分野の基本を学んでおく

経営人材確保支援事業のあり方を調べたNEDOの報告書(2025年3月)は、事業の計画を立てるには、新規事業開発や経営の経験に加えて、研究領域を理解するための最低限の知識が必要だと整理しています。研究領域の専門性そのものは、起業の経験や海外での業務の経験と並んで、あるとより好ましいものとされています。

研究の専門知識がなくても、新規事業開発や経営の経験を生かせる役割はあります。ただ、研究者が多い会社ほど、研究者と事業の計画を話す場面は多くなると考えられます。研究者の多さは、技術の分野で違います。

研究者の多さの目安として、経済産業省の調査に回答した会社の社員の総数に占める博士号を持つ社員の割合を、技術の分野ごとに見ると、次のとおりです。

技術の分野博士号を持つ社員の割合
バイオ・ヘルスケア26%
エレクトロニクス22%
素材22%
医療機器21%
環境・エネルギー15%
AI・IoT12%
ソフトウェア・アプリ9%
ロボティクス8%
航空宇宙8%

博士号を持つ社員の割合は、バイオ・ヘルスケアの26%に対してソフトウェア・アプリは9%で、3倍近い開きがあります。

博士号を持つ社員の割合が高い分野の会社に応募する時ほど、その会社の研究分野の基本を学んでおくことをおすすめします。会社が出している特許や論文の要旨を読むと何の研究をしているかが分かり、会社の公式サイトや発表を読むとその技術を誰に売ろうとしているかが分かります。こうした準備をしておくと、面接で研究者と事業の話をしやすくなります。

12. 入る前に、会社の段階と、働く場所や報酬などの条件を確かめる

12-1. 応募する会社の今の段階と資金調達の状況を、会社の説明や面接で確かめる

同じ大学発スタートアップでも、会社の段階によって入った後の仕事が変わります。段階は、概念実証を終えたか、製品の販売や量産を始めたか、医療の分野なら承認を受けたかを、会社の説明や面接で確かめると見分けられます。

研究開発に多くの資金を使っている会社でも、早い段階にあることがあります。経済産業省の調査の報告書は、直近の事業年度の研究開発費が1億円以上の会社の半数以上が、「PoC前」か「PoC後」の段階にあるとしています。

売上が立つ前の段階の会社に入る時は、直近の資金調達の時期と、次の調達の予定を面接で聞いておくと、入った後の仕事の見通しを立てやすくなります。

12-2. 本社の所在地だけでなく、自分が働く場所を面接で確かめる

本社を東京に置き、地方の大学の近くに研究や開発の拠点を持つ会社もあります。そのため、本社の所在地だけでは、地方で働けるかどうかは分かりません。

地方で働きたい方は、求人に書かれた勤務地と研究や開発の拠点の場所を見たうえで、自分がどこで働くことになるかを面接で確かめることをおすすめします。データベースで探す時は、本社の都道府県に加えて関連する大学の列でも絞り込むと、東京に本社を置き、地方の大学と関わる会社も候補に入ります。

12-3. 転居しないなら、副業やリモートで関われるかを確かめる

地方の大学発スタートアップの経営人材を探す取り組みには、副業から関わる形が多くあります。NEDOの経営人材確保支援事業を受託したupto4株式会社は、東北の大学の技術とのマッチングで、経営人材が副業のEIRとして6か月間、月10時間程度、時間単価1万円の謝金で関わる形をとりました。

FFGベンチャービジネスパートナーズは報告書で、副業で関わる経営人材のなかにスタートアップに参画したい人がいても、スタートアップ側の資金などの理由で、副業から継続的に経営に加わるまでには多くの課題があると書いています。

同じ事業を受託した大阪大学ベンチャーキャピタルは、報告書(2026年3月)で、EIRの制度を準備し、経営人材がリモートで参画できる環境を整えたとしています。同社の採用のページには、EIRの人材の募集は終了したと書かれています。

Palette by LTSの公式サイトのよくある質問では、全国から応募でき、面談や一部の活動はオンラインで行い、研究テーマや関係づくりの状況に応じて、現地を訪ねることを相談する場合があるとしています。

経営人材確保支援事業のあり方を調べたNEDOの報告書(2025年3月)は、この事業を受託した事業者の取り組みから、地方で経営人材を得るために首都圏の人材がリモートで関わる場合、研究者と関係を築く段階へ進む例は少ないとしています。また、関係を築く段階からは、定期的に対面で話す必要があるとまとめています。

副業やリモートで始める時は、関わる時間と報酬、対面で会う頻度、その後に常勤で加わる道があるかを、会社や研究者と確かめておくことをおすすめします。

12-4. ストックオプションは、税制適格かどうかと、権利を使える時期を確かめる

スタートアップでは、報酬の一部としてストックオプションを受け取ることがあります。

国の税制の要件を満たすストックオプションは税制適格と呼ばれ、税制適格かどうかで、課税される時期が変わります。

経済産業省と国税庁の説明によると、税制適格でないストックオプションでは、権利を使って株式を受け取った時に、その時の株式の時価と権利を使う時に払う価格との差に、給与所得などとして課税されます。税制適格なら、権利を使った時には課税されず、株式を売った時に、売った価格と権利を使う時に払った価格との差に、譲渡所得として課税されます。

税制適格のストックオプションは、原則として付与の決議の日から2年を過ぎると権利を使えます。

副業などで社外から関わる人も、税制適格のストックオプションの対象になる場合があります。会社が「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」をつくって国の認定を受け、関わる人が過去10年間に製品の開発、販売、資金調達のどれかの仕事を2年以上してきたなどの要件を満たす場合です。

入る前には、受け取るストックオプションが税制適格か、いつから権利を使えるかを、会社に確かめることをおすすめします。

12-5. 東京23区に住んでいるか通勤している方は、移住支援金の対象になるかを確かめる

東京23区に住んでいるか通勤している方が、東京圏の外(東京圏の中の条件不利地域を含みます)へ移住して就業や起業をすると、都道府県と市町村から移住支援金を受け取れる場合があります。この制度の東京圏は、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県です。

移住の直前の10年間のうち通算5年以上、直近の1年以上を含めて、東京23区に住んでいたか通勤していたことなどが条件です。

金額は都道府県が決め、世帯で100万円以内、単身で60万円以内です。18歳未満の子どもを連れて移る場合は、1人につき最大100万円が加わります。

就業で対象になるのは、道府県のマッチングサイトに移住支援金の対象として載っている求人に就いた場合や、プロフェッショナル人材事業または先導的人材マッチング事業を利用して就業した場合です。移住前の仕事をテレワークで続ける場合も対象になります。

用語説明

プロフェッショナル人材事業:各道府県のプロフェッショナル人材戦略拠点が、地域の企業と専門の人材の出会いを支える事業

申請は転入から1年以内に行い、申請から5年以内に移住先から転出すると返還の対象になります。実施の期間や金額は自治体ごとに、要件は市町村ごとに違うため、応募する会社の求人が対象になるかを、移住先の都道府県や市町村に確かめることをおすすめします。

(2026年11月3日時点)

13. まとめ: 自分の経験から分野と段階を選び、地元や移住先の大学から生まれた会社を探す

ディープテックと呼ばれる分野は20を超えます。ビジネスの経験がどこで、いつ生きるかは、製品を誰が買うかと、売るまでに何を経るかで変わるため、分野を5つのカテゴリーに分けると、自分の経験を生かせる分野を選びやすくなります。

まず、自分の経験の種類から、生かしやすい分野を選びます。早くから営業や事業開発に携わりたい方には、部品や素材、装置を企業に売る会社や、ソフトウェアやデータを受託やサービスで売る会社をおすすめします。医療機器と再生医療の会社では、承認の前から事業計画の経験が求められると考えられます。

宇宙、核融合、量子、防衛などの分野では、国の基金や実証の事業、政府の調達が関わるため、国の公募や調達に合わせて事業を計画する経験、政府や大企業と組む事業開発の経験、大きな額の資金調達の経験が生きると考えられます。

一方で創薬の会社では、臨床へ進むまで人と資金の多くが研究の成果を高めることに使われると考えられるため、ビジネスの経験は主に製薬企業との提携の交渉と資金調達に生かせると考えられます。

分野とあわせて、加わる段階を選びます。創業後は、早い段階では技術をビジネスの言葉で説明する経験が、段階が進むと事業計画を立てて事業を運営し、広げる経験が求められます。創業前の研究開発に加わるなら市場の調査と新規事業開発の経験が、創業に近づくほど資本計画と資金調達の経験が求められます。管理部門の経験は、分野を問わず、創業の後、人が増える段階から生かせます。

研究成果をもとにした大学発スタートアップは、首都圏の外の大学からも多く生まれていて、分野によっては、その分野の会社が占める割合が関東より高い地域もあります。また、営業、事業開発、財務の経験を持つ人を採れなかった大学発スタートアップは少なくありません。

自分の経験に合う分野と段階を選んだら、経済産業省の大学発ベンチャーデータベースで、地元や移住先の大学から生まれた、研究成果をもとにした大学発スタートアップを探します。

会社や研究者と直接会うには、地域の大学のプラットフォームが開く催しに参加するか、大学系のベンチャーキャピタルや自治体などの人材バンクに登録して相談する方法があります。創業前から関わるなら、EIR(客員起業家)の募集もあります。

応募する会社が決まったら、会社の特許や論文の要旨で何の研究をしているかを、公式サイトや発表でその技術を誰に売ろうとしているかを確かめておくと、研究者と事業の計画を話す準備になります。

入る前には、会社の今の段階と資金調達の状況、研究や開発の拠点がどこにあって自分がどこで働くか、副業やリモートで関われるか、ストックオプションが税制適格か、移住支援金の対象になるかを確かめることをおすすめします。

タレントグローススタジオは、人材紹介のサービスとして、これまでに積んだ営業、事業開発、財務などの経験を、地方の企業やスタートアップで生かしたい方の転職のご相談を受けています。地方の大学発スタートアップへの転職を、地方の企業での仕事と並べて比べたい方は、ご相談ください。

タレントグローススタジオを運営する、つなぐスタジオ株式会社では「ビジネス知の機会格差をなくす」というビジョンに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容や、その他キャリア・転職に関して気になる点がありましたら、お気軽にご連絡ください。

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